最後は炎が作り出す貫入
陶芸家 中村秀和さんの作品を一目見て「きれいだな」と中田がつぶやいた。とくに作品に現れる貫入の美しさに見入っていた。貫入とはいってみればヒビ。素地となる土と釉薬の収縮率の差により、焼いたあとの冷却時に生じるヒビのような模様ことだ。
窯のなかから、キンキンという音が響く。貫入がはいる音だ。中村さんは「一説によると20年間貫入が入り続けることもある」と教えてくれた。貫入は見ていて飽きないと中村さんは言う。
「貫入というのは、入り方を計算してコントロールして作るんですか?」
「土の収縮率と釉薬の収縮率を計算します。釉薬の厚みを変えることでも変わってきます。でも最後は炎が頼りなんです」
整えるものを整えて、最後は炎という自然が作り出すものに頼る。人の力と自然の力が融合したところで、作品が出来上がっているのだ。中村さんは2004年に伝統工芸展に入選したのをはじめ、その後も数々の賞を受賞している陶芸家。「最後は炎に頼る」という言葉が印象的に聞こえた。
立体的な貫入は特徴の一つ
「貫入が立体的に見えるのがすごく面白い。これは何層も重ねることで作っているんですか?」
「いえ、実は釉薬の層としては一層なんですよ。ただ厚くしてあるんです」
素地は薄くつくり、釉薬を厚めにかける。そうすることで、貫入の入り方が中田のいうように立体的に見えるなどして複雑になるのだ。その複雑なヒビが作品に奥行を与えて、中村さんの特徴のひとつとなっている。
色合いを複雑にできる青磁へのこだわり
また中田は色にも注目した。「貫入が入っていて、地が黒色の作品ってあまり見たことない」。中村さんは色にもこだわりを持っている。中村さんの作品は青磁のものが多い。それでも磁器ではなく、陶器で青磁を作っている。中村さんの言葉を借りれば「土ものの青磁」だ。そこにたどり着いたのは陶器としての青磁のほうが色合いを複雑にできるからだという。その複雑な色合いに中田も見入ったというわけだ。なかには赤みがかったものもあったが、それも土の持つ鉄分と釉薬の鉄分から出される色だという。
陶芸のストレスは陶芸で発散
作品を作ることに疲れてしまったときは、製作途中の作品をよそにおいて、新たに食器を作ることもあるそうだ。
「青磁は突っ込んでいく作業。ストレスが溜まることもあるんです。だから好きに食器を焼いてそれを発散するんです」
焼物のストレスを焼物で発散する。つくづく陶器作りにどっぷりの方だ。実は奥様も陶芸家。同じ工房で作業をしている。ある意味でライバルなのかもしれない。「窯の取り合いですよ」と中村さんは笑う。
「でも感覚は全然違う。僕がいいと思ったものでも、彼女はダメと思うことがある。その違いが面白いんです。それからなかなかお客さんは批判をしてくれないけど、彼女は率直に批判してくれる。ありがたいなって思います」
ただ最後に「その批判で落ち込むこともありますけどね」と中村さんは笑っていた。