南部鉄器の製造工程
南部鉄器の製造工程を見学するために、岩手県盛岡市にある株式会社岩鋳を訪ねた。株式会社岩鋳は明治35年創業。国内でも有数の大型工場を持ち、現代の生活に馴染む鉄瓶や鉄器から、約400年の伝統を受け継ぐ手作りの南部鉄瓶まで多岐に渡る製品を製造している。今回は観光施設と工房を兼ねた「岩鋳鉄器館」を訪れ、職人による手作りの作業を見学させていただいた。
工房ではちょうど「鋳込み(フキ)」と呼ばれる作業が始まっていた。南部鉄器の伝統工芸士・八重樫亮(やえがしあきら)さんが溶解炉で約1500℃に熱した鉄を“とりべ”と呼ばれる大型の柄杓に取り、鋳型に流し込む。二人の職人が鋳型を抑えてサポートする。鋳型から火が立ち上るが、冷静に鋳型から余分な鉄を取り出す。鋳型に鉄を流し込んでから余分な鉄を取り除くまでは約25秒程度。
「鋳型に流し込んでからすぐに、余分な鉄を流してしまうんですね。鉄はそんなに早く固まるものですか?」と中田。
「そうです、鋳型に流し込むと一瞬で冷えて固まります。鉄は1000℃以上になると溶解した状態になりますが、すぐに冷えるんです」
中田もこの鋳込み作業を体験させてもらう。鉄の変化を目の当たりにする南部鉄器作りの華形とも言える作業だ。
南部鉄器には様々な工芸技術が盛り込まれている
「南部鉄器の作り方というのは、簡単に言えば“鋳物”に当てはまります。ただ、砂や粘土から鋳型を作る工程は陶芸、鉄瓶を調整する工程は彫金、表面の加工には漆の知識が必要です。様々な工芸分野の技術が含まれるので習得にも時間がかかります。そして知れば知るほど昔の人の合理性に驚きますね」と八重樫さんは話す。
現在、国産の鉄は生産量が極めて少ないため、原材料の銑鉄は海外からの輸入し自社工場で最適な成分に精錬してから使用している。この銑鉄は炭素やシリコンを多く含み、割れにくい丈夫な鉄器になるというメリットもあるのだという。
「材料の鉄は昔と同じというわけには行きませんが、製造技術はしっかり受け継がれています。職人たちの意志があってこそ技術を絶やさずに来たんだと思います」。株式会社岩鋳には20代、30代の職人も在籍する。手作りの南部鉄器は職人自身が意匠を描き一つひとつ作り出すのだ。
使うことによって“変化”を楽しむ
「鉄瓶は、特別に扱いにくいということはありません。使えば使うほど良くなっていく物なんです。使い込むことで少しずつ変化し、その人の暮らしが写し取られていく。そういう魅力があるんです」
同じ製品でも修理のために戻ってくると全く異なる顔になっていると八重樫さんは話す。
「修理はいずれ必要になりますが、修理に来た時が一番嬉しいです。直してでも使いたいと思ってもらえることが嬉しいですね」
手作りの南部鉄器は繊細な技術を守り、その趣を大事にする。そして国内や海外で多くの人の手にとってもらうために、南部鉄器の技術を応用し鉄鍋やフライパンといった現代の調理用具の生産にも力を注ぐ。こうして多方面から南部鉄器の魅力を知ってもらうための製造を続けている。