ホームスパンとは
今回お伺いしたのは日本ホームスパンという名前の会社。さて、いきなりだが、会社名にある「ホームスパン」というものをご存知だろうか。ホームスパンとは、手紡ぎによる、主に太めの粗糸などを使った手織りの織物のことを指す。もともとはイギリスで始まったもので、明治時代に日本に入ってきた。軍需物資としての必要性もあり、農家の副業として定着したのだそうだ。
日本ホームスパンはその伝統技法を生かして1955年に設立された。伝統技法を受け継ぎながら、現代のニーズに合わせたものも制作している。素材の基本はウール。産地ごとに特徴が異なることからウールだけでも数種類を常備している。また、シルクや綿、化繊などを織り込むということにも挑戦しているのだ。毛の状態で染色をして、その毛を糸につむぎ、織り機で織り上げていく。そのひとつひとつが職人さんの手作業で行われていた。
手織りの風合いを目指して
手紡ぎだと独特の凹凸がでる。色や模様のでかたも不規則。そこに味がある。ただし手染め、手紡ぎは一日にできる量が限られるので値段の設定がすごく難しい。このため現在では機械も導入して製品を作っているが、やはりこだわっているのは「手織りの風合いを出すこと」だと案内してくれた菊池邦子さんはいう。
「機械の織り機は導入していますが、ホームスパンの大きな魅力は手織りの温かさ。機械生産でも単純に機械任せにするのではなく、ゆっくりと機械を動かしたりして、手織りの技術を機械に導入しながら織っています」
そうして生まれる商品はツイードの布地やニットのストールなどさまざま。その作業は糸と糸のバランスを慎重に調整し、非常に複雑な織り作業が行われているのだ。
若い人が受け継ぎ、世代交代が進む現場
工房見学で驚かされたのがサンプルの数。毎日のように展示会用のサンプルを作るのだそう。数百はあるという数え切れないほどの布サンプルから商品化されるのは年間40~50パターンほどだという。
日本ホームスパンでは、主にアパレルメーカーに生地を卸している。種類の豊富なデザインや手織りの風合いから、国内外のメーカーから注文を受けているのだ。
工房を見渡して「織物っていうと海外ではおばあちゃんがゆったりと織ってるというイメージ。でもここは若い方もすごく多いですね」と中田が感想をもらす。
「うちは若い人も多いですね。それから忙しい時には昔に活躍していた近所のおばあちゃんが手伝いに来てくれる。地元とうまくリンクして、世代交代のシフトもうまくできたと思っています」
地元に根付く横の広がり。そして忙しい時には先輩にも手伝ってもらうという縦のつながり。まさに縦糸と横糸が一枚の文化を織り出している場所だった。