海外にも広く知られる日本のお酒
岩手県の最北端、青森県との県境に位置する二戸市にある酒蔵。100年以上の歴史を持つこの蔵が造る酒は「南部美人」という酒。一度見れば忘れないその名前で、酒好きでなくとも知っている人は多いのではないだろうか。その名のとおり、透き通るような味が特徴的な「美しい」銘酒だ。
都内で見かける機会が増えたと中田が話すと、案内してくれた五代目蔵元の久慈浩介さんは「出荷は県内と県外が半々といったところですね」という。実はそれとともに驚くのが、県外出荷の約10%が海外輸出だということだ。ニューヨークやロンドンはもちろん、ドバイの和食レストランにも輸出があるのだそう。ワールドワイドな日本の「SAKE」なのだ。
岩手の酒米を使用する
南部美人の主な原料米は「ぎんおとめ」という米。これは岩手オリジナルの酒造好適米。南部杜氏の里である岩手県だが、寒冷地のため稲作が安定したのは近年になってからだという。このために、オリジナルの酒造好適米は長く存在しなかった。その状況でまず1998年に、「吟ぎんが」という米がうまれた。それとほとんどときを同じくして生まれたのが、「ぎんおとめ」という米だ。南部美人として、試験醸造から関わってきた思い入れのある米だと久慈さんは話す。
吟ぎんがは心白がしっかりしているのに対してぎんおとめは少し柔らかめの米。そのためすっきりとした味わいになるのが特徴だ。南部美人という名前にもぴったりある米ではないか。
このぎんおとめのほかには、同業の蔵元たちが貴重な酒造好適米として保存活動を行う「愛山」という米も使うなどして、すっきりそして優しい味わいの酒を作り続けている。
わかりやすく旨い味を求めて
「目指しているお酒はどんなものですか?」という中田の質問に久慈さんは「わかりやすい酒」と答えてくれた。
「飲んだとき、わかりやすい酒。フレッシュで、輪郭がはっきりして、後味のいい酒かな。難しく考えずに、飲んでくださった人が笑顔になってくれる、そういう酒ができたらうれしいです」
そんな思いもあり、日本酒だけでなくリキュールの開発も始めた。そのきっかけは「お酒を飲めない人」の意見だったという。
「南部美人には興味があるんですが日本酒がダメなんですと言われたんです。だったら梅酒はどうだろうと。それで梅酒を作ろうと思ったんです」
ただ、いまさら梅酒を作ってどうなるんだと意見されたこともあった。だが南部美人としての梅酒とは何かを考え続けて、梅酒造りの常識を覆す糖類無添加梅酒にたどりついた。糖類を添加しないで生まれる、純米酒と梅だけの純粋な味わい。開発の苦労もあったがこの製法は特許も取得したという。
「日本酒がダメなら梅酒でいい。梅酒が飲めたらきっと日本酒も飲んでみようってなってくれると思うんです」
お酒の弱い方へは梅酒や果実リキュールを、お酒好きのかたへは日本酒をおすすめする。どちらも小手先でない王道の、しかも地元の酒を作れるようになったと久慈さんは胸をはる。笑顔のお酒を目指す蔵、南部美人の挑戦は続いていくのだ。