少人数での酒造り
三好市池田町サラダ…?こんな地名があるの? と思いきや、今回訪問した三芳菊の住所なのだ。「サラダ」という小字は、「更田」のカタカナ表記なのだとか。小字がカタカナ表記になっている地域は案外多いが、住所の表記に小字を用いることが少なくなっているので、地図で見ているとこの池田町界隈の地名は面白い。と、余談はさておき、三芳菊は4名ほどで酒をつくる小さな蔵だ。
5代目の馬宮亮一郎氏は、これまでの伝統的な杜氏制度を2001年に廃止し、自身の手で酒づくりに取り組んでいる人物。従来、閉鎖的だといわれる酒蔵だが、自身の酒づくりを見てもらうことで、少しでも酒と蔵を人々の身近なものにしたいと奮戦中だ。
武士の趣を残す酒蔵
馬宮家のご先祖は、もともと赤穂出身の武士だった。秀吉の片腕だった蜂須賀小六と一緒に阿波入りしたという。今も、当時を偲ばせる武家屋敷と武家門が残っており、武家門はなんと築300年。酒蔵の創業は明治36年からで、初期のころは“武家の商法”だったため苦労が多かったのだとか。
しかし、幾多の苦難を乗り越え、今は5代目。2007年には、日本酒愛好団体が全国各地の100銘柄を呑み比べする「純米酒バトル」で、堂々の最優秀賞に輝くなど、小さいながらも存在感のある酒蔵となっている。
地元の湧き水から醸し出す日本酒
三芳菊の酒は、蓋をとった瞬間からフルーツの香りが濃厚に漂い、決して甘くはないのに非常に丸みを感じる味わいが特徴。まるで白ワインのような日本酒である。この秘密は、仕込み水の性質にある。三芳菊では、秘境と名高い祖谷の岩場から流れ出る松尾川の湧き水を使用している。地元では名水として知られる湧き水だ。酒づくりには一般的には硬水が向いているとされるが、この水は超軟水。
三芳菊は、その性質をうまく使いこなし、水と米のうまみある酒を醸すのに成功、それが従来の端麗辛口とは一線を画す酒に仕上げているのだ。呑むと驚くほどのフルーティさ、一度は味わってみてもらいたい。