仙台箪笥の「金具」を作る仕事
今回の旅で、仙台箪笥を取り扱うお店も訪れたので、仙台箪笥の歴史などの説明そのものはそちらの項を見ていただきたい。そこでも説明したが仙台箪笥は本来、幅4尺(約120センチ)、高さ3尺(90センチ)と決まっている。
横120センチ、縦90センチというと大きくもないが、小さくもない。両手を広げれば端から端まで手が届き、高さは腰のあたりだろうか。普段遣いには使いやすく重宝しそうな、日常の箪笥だ。
それでも目を引くのは、豪華な飾りがあるからではないだろうか。普通、箪笥というと取っ手の部分にある金具や角の補強のために金具を使っている。しかし、仙台箪笥は武士が愛用したということもあるのだろうか、多くのものが正面に豪華な鉄の打ち出し金具がついているのだ。どうしてもそれに目を奪われてしまう。
今回は、その金具を作っている八重樫仙台タンス金具工房の八重樫榮吉さんにお話を伺うことができた。
“たがね”だけで1300種類
八重樫仙台タンス工房は、八重樫さんで四代目を数える歴史のある工房。祖父の代から仙台箪笥の金具一筋で生きてきたと、八重樫さんは話す。仙台箪笥は指物、漆塗り、金具すべてを分業で行う。だから、金具職人の八重樫さんは金具一筋なのだ。
龍、唐獅子、牡丹など、様々なものを金属から浮かび上がらせる。金属は主に鉄を使うが、銅、銀、真鍮を使用することもある。裏から板を叩き、膨らみを出してから、表を打って模様を出していく。トンカンとタガネの音が響く。大きく膨らませるところ、細かく打ち込むところ。その都度、八重樫さんは手にするタガネを変える。
「タガネってこんなにも種類があるんですね」
「約1300種類あります。あと、穴抜きに使う道具なども含めるともっと多いですよ」
より細密な模様を、よりダイナミックな模様を浮かび上がらせるためには、その技を存分に発揮できる道具がないといけないのだ。しかも道具は手作り。 「職人は腕が必要というけど、それ以上に道具が必要なんですよ」 と八重樫さんは話す。
意匠をオリジナルで作り出す
仙台箪笥の金具の意匠には、先ほど言ったように龍や唐獅子など、伝統的なものがある。もちろん定番の図案を叩くことも多いのだが、八重樫さんはオリジナルの意匠も描き出す。
「箪笥の意匠をまかせてもらって考えるときが一番楽しい」 と八重樫さんは話す。こういうものを作って欲しいというオーダーもあるそうだ。 「やらない模様はないですよ。職人ですからね、できないというのは恥ですから。オーダーをいただいて、箪笥全体のデザインを考えていくというのが本当に楽しいんですよ」
家に代々受け継がれてきた意匠を突き詰める。それと同時に、自分で新しくオリジナルのデザインを考える。生活様式の違いもあり、求められるものも変わってきたという。 作業の合間に、仙台箪笥に使われる金具をひと揃え見せていただく。現在も受け継がれる優雅な装飾は、ひとつひとつが輝いて見えるようだった。