昔は馴染みがなかった有機農法
NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』にも出演し、有機農法の世界では超がつくほどの有名人、石井稔さん。まだあまり有機栽培をしている人が多くなかった40年も前からこの農法で米や野菜を作ってきた、いわば先駆者的人物。だから最初は奇異な目で見られることもあったという。
「昔はね、変人扱いされていましたよ。最近、やっと認められてきたという感じですね」
今でこそ有機農法、オーガニックといった言葉が浸透し、私たち一般消費者もその存在を知っていて、それを選ぶ人たちも多い。だから生産者も自然と増える。そういう循環になってきているが、石井さんが始めた当初は同業者からも「変人」と呼ばれたそうだ。しかし努力の甲斐あって、安心、安全、もちろんおいしい、そんな米を作ることができ、それが世界でも認められ、「米・食味分析鑑定コンクール国際大会」 で5年連続受賞し、国際名稲会ダイヤモンド褒賞という栄誉を得るに至った。
地元の微生物が一番
石井さんの田んぼで有名なのは 「黄金のどじょう」。何のことやら、という人もいるかもしれないが、石井さんの田んぼの土のなかには、黄金のどじょうがいるのだ。これはつまり土の状態がすごくいいという証拠。
「土の状態を良くするには何十年もかかる。土の違いで同じ有機栽培といっても、まったく違うものができあがる」そのように石井さんは言う。化学肥料を使わないということだけでは、本当においしくて安全な有機栽培の作物はとれないのだ。石井さんは土の状態をよくするために微生物を発酵させて田んぼに入れている。
「全国の微生物でいろいろ試したが、うまくいいかなかった。地元の微生物を繰り返し使っているうちに、土がよくなったんです」 古くからその土地に住む微生物が、やはり一番合うのだそうだ。
農業は面白いですよ
有機農法で一番大変なのは除草だという。農薬を使わないので、一気にきれいさっぱりというわけにはいかない。根気強く取り去っていかなくてはいかない。これが何よりも大変なのだという。ただ最近、より効率的に除草をする方法を見つけたという。
「長年やっていてやっとわかった…。もっと早くに見つけてれば楽だったのに…」
有機農法のスペシャリストでも、まだまだこれから見つけていくものがあるのだ。それだけ大変な仕事、しかも当初は変人扱いまでされてというのに有機農法にこだわる理由は、「面白いから」。
「農業は厳しいですか」 と中田が聞く。石井さんはこう答えた。
「いや、農業は面白いですよ。もし厳しいと農家のみなさんがいうならそれは甘えかな。ただ消費者の方がほしいというものを作れば厳しくはないですよ。その方法は自分で好きなように作ればいいんですから」
これからもまだまだ有機農法を突きつめていく。そんな石井さんから、「消費者の方がほしいものを作ればいい」 という言葉が出てきたのはうれしい。自分たちのことを考えてくれているのだから。