茶師十段・鈴木義夫が確かなお茶を作る、お茶処静岡の「小島茶店」

茶師十段・鈴木義夫が確かなお茶を作る、お茶処静岡の「小島茶店」

一口に静岡茶といっても、産地によって香りや味わいは違う。ほどよい苦味と渋味でバランスがいいとされる川根茶、まろやかな甘みが特長の掛川茶、濃厚な旨味で高級茶とされる天竜茶などなど。そんな静岡茶のなかでも最も歴史が古く、800年以上前から存在し、徳川家康も愛飲していたとされるのが、静岡市の安倍川、藁科川(わらしながわ)上流の山地で採れる本山茶だ。本山茶の特長は、鮮やかな色合いで、口当たりのよい旨味と奥行きのある味わいがあること。静岡では一般的に、気候が温暖な沿岸部のお茶は新鮮な香りがよくすっきりとした味わいで、山間部で育つ茶葉は寒暖差があるため、日中光合成をした葉が夜の冷気で休まり、養分を蓄えコクと甘味が引き出されると言われているが、各地でお茶をいただくと、種類や味の違いの多さに驚きを隠せない。


静岡市の小島茶店は明治年間創業以来、本山茶を中心に静岡の土地ならではのお茶にこだわりその魅力を全国に発信し続ける茶商。代表の小島康平さんは、日本茶インストラクター制度の立ち上げにも深く関わるなど県内でも有名な方で、さらには国内に十数人しかいない茶鑑定技能最高位・十段(茶師十段)を取得している茶師の鈴木義夫さんが、お茶の選定・調合・製品化を行っている。


茶師の仕事は、農家が生産した茶葉(荒茶=茶農家が茶葉を摘んですぐ蒸し、揉み、乾燥させた状態)を買い付け、それぞれ特徴がある茶葉をブレンドし、様々な工程を経て最終商品に加工すること。どのようなお茶に仕上げるか考え、茶葉のセレクトなどを行ういわゆるプロデューサーの役割なので、産地ごとの特長や茶葉の違いについても精通していなければならない。鈴木さんがすごいのは、膨大な茶のデータが体に染み込んでいて、見ただけでどこのどんなお茶なのかがわかるところ。2007年、鈴木さんは、全国の茶師が集いお茶の味・香り・外観などから品質や産地を鑑別する「第54回 茶審査技術競技大会」において優勝を遂げている。茶葉の選定や品質管理の徹底はもちろん、お茶を仕上げる“火入れ”には、棚式熱風乾燥と直火火入れを併用しながら遠赤外線火入れも加えることで、茶葉の芯から素晴らしい味と香りを引き出しているそうだ。

温度の上昇が早く安定した燃焼を維持することのできる備長炭を使用しているのもこだわりの一つだ。


その鈴木さんが作り出した「天翠」は、最高のお茶をブレンドしてほしいという小島社長の言葉から生まれた逸品。家康公が愛した本山茶を主体として、牧之原が発祥とされる深蒸し技術を駆使した茶葉などから良品をピックアップし、水色、香りの奥行きや旨み渋み等のバランスが絶妙な味わいに仕上げている。


見学中、中田もいろいろな工程のお茶を試飲させていただいた。製品になる前の段階である”荒茶”の状態、そこから異なる強さの”火入れ”をしたレベル別、粉茶・茎茶・芽茶(煎茶や玉露を作る際に出る芽や葉の先端などを集めたもの)といった茶葉の状態違いなどで味わいも香りも異なる。煎茶は「旨味」「甘味」「渋み」のバランスの良さと、さわやかな香りに特徴があるのだが、お湯の温度や浸出時間によっても違いが出てくるらしい。小島社長のお薦めの淹れ方は、あらかじめ温めておいた急須に5・6gの茶葉を入れ、70℃程度のお湯を180~200cc注いで1分ほど待つ。勿論、湯飲みも温めておく。そうすると、バランスのよいお茶をいただくことができる。うま味を引き出したい場合には湯の温度を60℃くらいまで下げると良いそうだ。

お茶の違いを体験させていただいた後、最後には品種や蒸し具合の異なるお茶をブレンドして良質で美しいお茶に仕上げる”合組(ごうぐみ)“にもチャレンジ。

「香り、味わい、のどごし……ちょっとした分量の違いでかなり変わるところがおもしろいですよね。いつか自分でブレンドしたお茶を出してみたいと思っているんですが、正解がない世界だけに難しい。もっと勉強しなければと思っています」(中田)


「先ずはこれまで飲んでいただいている方々との信頼関係を大切に、これからも美味しいと言っていただけるお茶を提供していきたいです。また私たちのお茶を通じてより多くの方々にお茶の魅力を知ってもらえるよう、日々の仕事に励んでいきたいと思っています。」と鈴木さん。静岡茶だけでもその組み合わせは無限大。茶の世界はまだまだ奥が深い。

ACCESS

小島康平商店
静岡県静岡市葵区錦町19番地
TEL 054-252-1955
URL https://e-cha.jp/