NIHONMONO「にほん」の「ほんもの」を巡る旅マガジン

日本の原風景から生み出される幻の米・まん丸屋 曽我康弘さん

日本の原風景から生み出される幻の米・まん丸屋 曽我康弘さん

兵庫県の有馬温泉、群馬県の草津温泉と並び、日本三大名泉の一つとして知られる岐阜県下呂温泉。その温泉地から10kmほど離れた標高600m前後の傾斜地に広がる御厩野(みまやの)棚田。山地特有の地形の曲線に沿って階段上に水田が並ぶ光景は、自然を生かしたアートであり、先人たちの知恵と努力の結晶でもある。棚田は山間地特有の寒暖差と日照時間の長さによって良質な米ができるだけでなく、土砂崩れや洪水を防ぎ、地下に浸透した雨水を下流で再利用できるなど様々な機能を有しており、周辺地域に住む人々の暮らしを長年守ってきた。しかし、棚田は山間を開墾して作っているため1枚あたりの面積が狭く、また農道の整備が不十分で大型機械が使用できなかったり、とけわしい栽培条件の影響で平地と比べて“労力は2倍、収量は半分”といわれるほど米作りに手間がかかることや、生産者の高齢化・後継者不足によって耕作放棄地も増えており、棚田の存在自体が貴重なものとなっている。

この地域で2000年に偶然発見された米の品種が「いのちの壱」。コシヒカリの約1.5倍ほどの大きさの粒ならではの食感。そして、強い旨味と甘味、炊き立てがおいしいのはもちろんのこと、冷めても固くならず更に旨味がぎゅっと凝縮され、おにぎりや、お弁当に入れた時にも美味しさが続くところが魅力だ。この品種のポテンシャルを最大限に引き出すべく品種改良を加え、豊かな土壌と清らかな水に恵まれた、岐阜県飛騨地域と周辺の中山間地域に栽培地を限定したブランド米『銀の朏(みかづき)』を仲間と生産しているのは「合同会社まん丸屋」の曽我康弘さんだ。

山の中を通ってミネラルを豊富に含んだ水が、良い土を作り、よい米を育ててくれる環境で、手間を惜しまず、もっと美味しくするために最新の設備を導入するなど、美味しさを保つことに余念がない。曽我さんの農場ではAI機能がついた乾燥機を導入し、収穫された水分量の違う米を撹拌して選別し、米ごとの水分量に合わせた乾燥を自動で行うなど、収穫されたお米が最適な状態で仕分けられ管理されている。「『また新しいの買ったの!』と妻に呆れられてるけどね」と最新機能が搭載されたコンバインを撫でながら曽我さんは笑う。

試行錯誤しながら育てた銀の朏は、日本で行われるお米コンクールの中で最も大きな大会と言われる「米・食味分析鑑定コンクール」で特別栽培米部門で2年連続金賞受賞、更にこのコンクールで金賞を受賞した玄米の中から東洋ライス社が「酵素活性性」・「美味と生命力」に重点を置いて厳選し全国で4人しか選ばれない「世界最高米」の栄誉に輝くなど、その実力を日本中に知らしめている。世界最高米に選ばれた玄米は一般価格の約8倍にあたる1900円/1kgで買い受けられ、840g(6合分)が18,000円(消費税・送料込)で一般販売された。流通量が極めて少ないことから”幻の米”として食通の間でもかなりの評判になっている。

曽我さんが大切にしているのは、農薬の使用を可能な限り控え、化学肥料を一切使用せず、独自の基準をクリアしたオリジナルの有機肥料のみで育てること。病気に強くない品種のため品質管理を徹底し、異常気象による気温や降雨量の変化にも対応できるよう蓄積したデータと長年のカンを頼りに、我が子を育てるように銀の朏と向き合う。また、収穫後は乾燥や寒さや暑さなどの環境の影響を受けにくく、米が生きた状態で保存される籾つきの状態で一定温度に保った倉庫に保管し、注文が入ってから籾を取り除いて出荷する。もみ殻に守られ生命力を保ったお米が、新米の時のフレッシュな味わいを長く保つことが出来るからだ。「栽培地を限定しているし、人もいないから出荷できる量は決して多くない。だからこそ、できる限り美味しい状態で待ってくれているお客さんのもとに届けたい」と曽我さん。

昔ながらの場所で、昔ながらのやり方で作る米が、世間の評価を集めているのは、日本の原風景を守り、後世に伝えていく正当性を訴えているようにも映る。そして、曽我さんはどれだけ美味しい米ができても「これで良いということはない」と雑念が入る余地がない。曽我さんの下で今日も日本の米作りの未来が大切に紡がれている。

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合同会社まん丸屋
岐阜県下呂市野尻298-2
TEL 0576-26-2047
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