NIHONMONO「にほん」の「ほんもの」を巡る旅マガジン

匠の伝統を受け継ぐ現代の木工芸職人・大澤昌史

匠の伝統を受け継ぐ現代の木工芸職人・大澤昌史

岐阜県北部に位置する飛騨高山。豊かな森に囲まれたこのエリアでは「匠(たくみ)」と呼ばれる技術者が数多く育ち、1,300年ほど前から日本の木工や木造建築の先端を担ってきた。奈良時代においても、その技術の高さが認められ、年間100人ほどの匠を都に派遣する代わりに税が免除される「飛騨工制度」が特別に制定されるなど、薬師寺・法隆寺・東大寺など、数多くの神社仏閣の建立を支えてきた。

その後も歴史的な建築物に携わり伝統文化を発展させていくなかで、「飛騨春慶(ひだしゅんけい)」「一位一刀彫(いちいいっとうぼり)」などの工芸品を生み出してきた。そして、100年ほど前に西洋の家具技術“曲げ木”が伝えられ、試行錯誤しながら匠の伝統技術と融合した。日本人の食生活のスタイルがちゃぶ台からダイニングセットに変わっていくのにあわせて、高山の家具職人たちは高いデザイン性と機能性をあわせ持つ木工家具のノウハウをたくわえ、高山は日本を代表する家具生産地として誰もが認める存在となった。今日も国内外に“匠”のファンを増やし続けている。

東京都日野市に生を受けた大澤昌史さんは、20代前半に高山に移住し、職業訓練校で木工技術を学んだ後、家具職人として家具メーカーに就職した。「気にいってしまって、勢いで(笑)」と築80年を超える古民家を購入し、そこで自身の工房「まる工芸」を始めた。
当初は、木工家具を作っていたが、曲げ木の技法を追求していくなかでオーダーを受け「オーバルボックス」という楕円系の箱の制作を開始した。オーバルボックスはキリスト教諸派のシェーカー教徒が、19世紀ごろ「美は有用性に宿る」という信仰に基づき、ていねいな手仕事で生み出した家具の一つが起源。薄い木材を曲げて作られるシンプルな物入だ。多くのメーカーや職人たちがレプリカとして復刻版を制作するようになると、幅広い層からの支持をうけて、生活に溶け込むおしゃれな雑貨として知られるようになった。
それを大澤さん流に再現する。かなめは、家具職人時代に培った曲げ木の技巧。薄く堅牢な広葉樹を高温の蒸気で蒸して柔らかくし、型に入れて固定し、乾燥の加減を見極めてしなやかで美しい曲線を作り上げる。それぞれ異なる木目や木が持つ水分に合わせて、ミリ単位の調整が必要なため、一筋縄ではいかない。曲げた木が反ったり浮いたりしないよう“スワローテイル”と呼ばれる形に接合部をしつらえ、一つ一つていねいに貼り合わせる。絶妙な力加減で小刀を使って切り出し、細部にまで魂を込めていく。無駄が極限まで削ぎ落とされ、完全なる機能美を体現した作品は多くのファンをとりこにし、ほとんど店頭に並ぶことが無いまま、完売してしまう。

また、伝統的な工芸を現代の生活様式に合わせて再構築するのが、大澤さんのスタイル。曲げ木の技術を応用した優雅な曲線が美しい木製のティッシュケースや、見事な円を描いた木枠の中にはめた鏡なども生み出し、合理性とオリジナリティを両立させた様式美を追求する。今度の目標は、100年後も残る作品を作ること。「ただ、美しいと心から思えるものを作りたい」。先人の意思と技を継いだ現代の匠の願いは、作品の佇まいのように、どこまでもシンプルで、比類なく純粋だ。

ACCESS

まる工芸
岐阜県高山市久々野町柳島1463
TEL 0577-52-3882