棚田の美しい風景を作る米、「坂本自然農場 穂田琉」/愛媛県東温市

「つなぐ棚田遺産」に選定されている、愛媛県東温市河之内(とうおんしかわのうち)音田(おんだ)地区の「雨滝音田(あまたきおんだ)の棚田」。この地で作られた「穂田琉米(ほたるまい)」は「米・食味分析鑑定コンクール国際大会 国際総合部門」の 第22回(令和2年)・第23回(令和3年)、2年連続金賞など高い評価を得ている。

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棚田風景を残すために始めた農業

実家は東温市の米やシキミ(仏事に用いられる常緑樹)の栽培農家。若い頃は都会への憧れが強く、家業を継ぐつもりはなかった。大学卒業後は縁あって地元・東温市役所に就職。農林振興課時代に棚田の整備をはじめ地域活動に深く携わるなかで、年々農業が衰退しかつての風景が失われていく現実に直面する。音田は40戸ほどの集落で、田畑は10ヘクタール余り、戦後には河之内全体で80ヘクタールほどあったが、現在耕作されているのは50ヘクタールほど。「棚田風景を残したい」という思いから58歳で早期退職。本格的に米作りに取り組み始める。

米作りを始めて間もなく、自分が育てた米の食味値を農協職員に計測してもらうと、思いのほか88点という高い数値が出た。初収穫ながらの高数値に、雨滝・音田の棚田はおいしい米を育てられる場所なのだという大きな自信を得ることができた。

森と渓谷が育む清流と棚田

音田の棚田には、おいしい米が育つための条件がそろっていた。標高250メートルに位置し、昼夜の寒暖差が大きく、日当たりも良好。さらに土壌には保水力があり、稲作に適した性質を備えている。そして何より、この地が誇るのは水質だ。

農場のすぐそばには「雨滝(あまたき)」という小さな滝があり、かつては雨乞いの儀式が行われていた神聖な場所。ほかにも、白猪(しらい)の滝、唐岬(からかい)の滝、窪の淵など、豊かな水の名所が点在し、これらは広葉樹に囲まれた山間にあり、養分やミネラルを含んだ清らかな山の水が田んぼの水源となっている。清流の証とも言えるのが棚田近くにある「雨滝ほたるの里」。夏の夜には無数のホタルが舞い、自然の豊かさを感じさせてくれる。 

穂田琉米(ほたるまい)の誕生

豊かな自然環境の恩恵を受けているものの、草刈り負担や有害鳥獣被害など生産効率が高いとは言えない棚田での米づくり。続けていくには米の価値を高め、ブランドとして確立させる必要があった。「風景が作る米」という意味を込めて「穂田琉米(ほたるまい)」と名付け、2013年には日本最大級の国際的なお米のコンクール、「米・食味分析鑑定コンクール」へ初出品。このコンクールでは、米の水分・タンパク・アミロースなどを専用機械で分析した数値と、旨味や甘味やコクなど食べたときの味の感じ方の審査、両面から米のおいしさを評価する。「甘かったですね。最初はまったくでした」と当時を振り返る。その後はコンクール開催地へ足を運び、全国の農家を訪ね歩き、多くの生産者と対話し技術を学んでいった。

減農薬・有機栽培へ移行し、金賞受賞へ

最初は農薬や化学肥料を用いた慣行栽培から始まった「穂田琉米」。全国の農家と交流を重ねるなかで、次第に減農薬や有機栽培への関心が高まっていった。肥料中の窒素成分を抑える栽培方法や、有機質のミネラル肥料を使った土づくりなど、さまざまな分析を重ね、タンパク質が少なく粘りのあるおいしい米を目指してきた。タンパク質量が少ない米は、でんぷんが水分となじみ、ふっくらやわらかく、食感のいい米に仕上がりやすい。「データの収集と分析は得意でしたから。農家ごとに異なる、ほんのわずかな違いを自分なりに吸収し、磨き上げていったんです」。

有機栽培をはじめてしばらく経った2020年・2021年には、「米・食味分析鑑定コンクール」にて「坂本自然農場 穂田琉(ほたる)」の「にこまる」が、国際総合部門で金賞を受賞した。コンクールでは食味値審査の後に、「おねば層」を測定する味度値の審査が行われる。おねば層とは、炊飯時に米のでんぷんが溶け出して、米粒の表面に形成される粘りのある層のことで、おねば層がしっかりしている米ほど、ツヤ、粘り、口当たり、甘味の感じやすさにつながる。「味度値が上がったのは、有機栽培にして化学肥料を使わなくなってから。有機に変えてから突然花開いたわけではなく徐々にです。追い求めていた味に近づいてきました」。

「穂田琉米」は、食味・安心・品質にとことんこだわった米だ。食べる人の元に届くまでの品質管理にも余念がない。米は空調完備の精米室で冷房精米され、保冷庫で一年を通して14度以下に保たれている。これは、冬を越した際に室内と外気の温度差で結露が発生するのを防ぐためだ。さらに通常の管理では虫がつきやすい肥料用の糠(ぬか)さえも、温度管理のうえ丁寧に保管されている。

自然と人が共存する「JINEN(自然)」

現在、「穂田琉米」は4品種6銘柄を栽培しており、「農薬を8割削減した米(エコえひめ基準比)」と「農薬を使わない米・JINEN(自然)」の2種類に分かれている。どちらも化学肥料は使わず、ワラやぬか、モミガラくん炭など、田んぼに還る有機肥料だけで育てられている。

独自ブランドである「JINEN(自然)」には、この土地に生きる微生物や畔(あぜ)に咲く花など、すべての命と共に米を育てていきたいという想いが込められている。「本来、米は自然に育つもの。必要でない肥料を無理に加えるのではなく、足りないものだけをそっと補う。それが、自分らしい米作り。風景に恥じない米を作りたい」と語る。

JINEN(自然)の一種である「恩田千年之米(おんだせんねんのこめ)」は、自家採種した種を使い、肥料や化学物質には一切頼らない「一粒苗づくり」による自然栽培の米だ。すべての工程が手作業で行われており、まさに人と自然の力だけで育まれている。山間部での栽培ということもあり、収穫量は一反あたり約4〜5俵とごくわずか。現在の農業では平地での一反あたりの収穫量は一般的に8〜10俵ほどと言われ、収穫量は圧倒的に少ないが、これが坂本さんの米作りの循環における基礎になっている。

農村に誇りを、未来へつなぐ棚田の米作り

新たに米作りを始める就農者はほとんどいないのが現実だ。古くて狭い構造の棚田を農地として活かすには、水路の整備などを含め、多くの課題がある。「この風景を守りたい」という想いから始まった米作りは、いまや個人の挑戦を超え、地域全体への願いへと広がっている。

坂本自然農場 穂田琉では、米のオーナー制度「ほたるクラブ」を立ち上げ、米作りにいちから関われる仕組みを整えた。草刈りなどの小さな作業からでも参加でき、初期投資や農地がなくても、兼業として米作りに関わることが可能だ。とくに子どもを持つ親世代の参加者たちは、「子どもたちが将来も安心して米を食べられる未来」への意識が高い。自ら学び、育て、食べる。その体験を通して、米作りのできる環境を持つことが、子どもたちの未来を守る一歩になると感じている。

「一番大切なのは農村に誇りを取り戻すこと。この風景を作っているのは自分たちなんだと誇れること」。そのためにも、この地で育つ米の価値を高める努力は惜しまない。おいしい米が育つ環境である「雨滝音田の棚田」で、この土地の自然(じねん)を最大限に活かせば、世界に通用する米ブランドへと育つ可能性がある。「実現するのは僕の次の世代かもしれません。未来へつなげていくことが、今の自分の夢です」。

2025年12月には生産・販売団体として活動していた事業を法人化し、「株式会社 穂田琉」を設立。これにより同社は、輸出を見据えた販路の拡大や農産品の加工、さらには里山の保全活動などを視野に事業の拡大を目指し、地域資源を次世代へつなげるためのフェーズへと踏み出す。

ACCESS

株式会社 穂田琉
愛媛県東温市河之内4950-1
TEL 089-966-4458
URL https://hotarufarm.com/
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