伝統とデジタルの融合により、手漉き和紙に新たな息吹を。「りくう」佐藤友佳理さん/愛媛県西予市

名水百選にも選ばれた「観音水」が湧く、愛媛県西予市宇和町明間(あかんま)地区。日本の原風景が残るこの地で、清らかな水の恵みを受け和紙の新たな可能性を追求しているのが、和紙デザイナーの佐藤友佳理さんだ。伝統的な手漉き和紙の技法にデジタル技術を融合させ、これまでにない立体和紙作品を生み出している。

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350年の歴史を誇る大洲和紙の産地から

佐藤さんは、伝統的な手漉き和紙「大洲和紙」の産地として知られる愛媛県内子町五十崎の出身。大洲和紙は清流・小田川の恩恵を受けながら、元禄時代(1688〜1704年)に大洲藩が越前和紙の技術者を招いて技法を確立したといわれる。明治末期には400人を超える職人がいたが、洋紙の普及にともない近年は数人にまで減り、伝統産業の継承が課題となっていた。

高校卒業後、佐藤さんは一度故郷を離れてロンドンでモデルとして一線で活躍。多忙な日々を送る中、父親から地元の手漉き和紙が厳しい状況にあると知らされる。

「いずれは和紙に携わりたいと考えていたので、帰国後、東京の桑沢デザイン研究所でデザインを学びました。その2年生の時、父の建設会社が愛媛県産業技術研究所と建築向けの和紙をつくるプロジェクトに着手することとなり、デザイナーとして参加することになったんです」

東京と内子を往復しながら商品開発に挑んだ経験に手応えを感じた佐藤さんは、2010年に帰郷。本格的に地元での和紙製作に踏み出した。

繊細かつ軽やか。「呼吸する和紙」の誕生

佐藤さんの父親らが立ち上げたプロジェクトにより生まれたのは、和紙の原料である楮(こうぞ)に鉱物のゼオライトを付着させた和紙。調湿や消臭機能が高く「呼吸する和紙」と称される。佐藤さんは、その特性を活かしたインテリア装飾に活路を見出し、住空間に吊るすモビールを生み出した。発想の源はロンドン時代。現地の建物は天井が高く、その余白を活かしたインテリアをよく目にしたそう。日本にもモビールのようなインテリアがあれば…との思いが形となった。

まず、鋲を打ち込んだ木型に紙縒り(こより)状にした和紙の糸をレースのように編み、糊で固めて枠を製作する。そこへゼオライト楮を手作業により漉き込むことで、楮繊維の濃淡を表現。伝統的な紙漉きの工法を踏襲しつつ、しなやかで美しいゼオライト和紙の特性を活かすオリジナルの手法だ。

紙を漉くための巨大な水槽が置かれた工房を見回すと、モビールが吊り下げられている。風に揺れるモビールは繊細な美しさをまとい、これまでの和紙のイメージをくつがえす軽やかさが特長だ。

名水の恵みに満ちた、山里の工房

2012年、佐藤さんは内子町から名水百選に選ばれた観音水が湧く西予市宇和町明間に移り住み、祖父母が暮らしていた家の敷地に和紙工房「りくう」を開いた。

観音水は江戸時代に四国カルストに降った雨が地下水となり、洞窟から湧き上がったものといわれ、工房のある明間地区に毎日8000トンの水量の恵みをもたらす。不純物が少なく手漉き和紙には理想的な水質ということもあり、かつてこの地は紙漉きが盛んだったという記述もある。

庭先に工房をつくり、観音水を引いて和紙を漉く環境を整えた。祖父母から受け継いだご自宅にも、佐藤さんの作品がしっくりと馴染む。うっすらと透け、儚さすら感じるゼオライト和紙は、衝立のように大きなものでも圧迫感がなく、空間を軽やかに演出する。

3Dデジタル技術で和紙の可能性を拓く

現代の住環境においては、淘汰されつつある和紙。だが、その繊細な美しさや柔らかさ、あたたかみは、時代を超えて日本人の心に寄り添うものであるはず。そこで佐藤さんは和紙の魅力を現代に伝える方法として、3Dモデラーとして活躍する夫・寺田天志さんのサポートのもと、デジタルファブリケーションなどの新技術を積極的に取り入れたプロダクト制作に挑んでいる。

工房にはモビールや照明、インテリア小物が飾られており、その中には寺田さんとの共作も。3Dデジタル技術を駆使した立体和紙のプロダクトだ。3Dモデリングによってパーツを制作し、その立体物を経験から編み出した手法で漉きあげていく。

寺田さんは国の重要無形文化財にも指定されている徳島の「阿波人形浄瑠璃」を3Dプリンターで製作するプロジェクトにも携わっており、伝統工芸とデジタルの融合への理解も深い。

「今までの立体的な和紙作品は有機的な形状のものが多く、重厚感のあるイメージがありましたが、3Dデジタル技術を活かすことで、より軽やかでモダンなデザインが可能に。和紙の表現の幅が広がりました」と二人は声を揃える。

佐藤さんがデザインの発想を起こし、寺田さんがコンピューター上でシミュレーションを行う。工房には3Dプリンターやレーザー加工機などのデジタルファブリケーション機材を揃えたラボを構え、モデリングから手漉きまで、一連の作業がここで完結する。

立体、特に曲面となると手漉きの難易度は上がるが、ゼオライト楮の繊維の乗せ方を工夫するなど、探求の余地を感じているのも確か。佐藤さんは制作をともにする和紙職人とともに5年ほどの月日を費やし和紙原料をムース状にしてコーティングする独自技術を編み出した。

うねり、ひねりの表現を加え、和紙が多様な表情を見せる

デジタル技術を活かした和紙照明「Hineri」は、りくうの代表作ともいえるプロダクト。3Dモデリングによって木枠をつなぐジョイントパーツを製作し、まさしくひねりを加えながら複雑なデザインを実現している。

海外でインテリアやデザイン、ファッションの世界に触れてきた佐藤さんならではの感性で、和紙の新たな魅力を引き出している。

デジタルを新しい道具として捉える

「伝統工芸にデジタル技術を取り入れると、昔ながらの技術が奪われてしまうのでは、と懸念されるかもしれません。ですが私たちは、デジタルテクノロジーを現代における道具の一つと捉えています。手仕事の制作工程に最新の技術を組み込み、それぞれの長所を活かすものづくりのイメージです」と佐藤さん。

和紙の新たな表現の可能性を拓いた、その斬新なデザインは国内外から高い評価を受け、ホテルやラグジュアリーブランドなどからも続々とオーダーが舞い込んでいる。これまでにRIMOWA表参道店の照明、国内外のLOUIS VUITTON店舗の装飾、インターコンチネンタル横浜Pier8へのアート制作など幅広いクライアントワークを手掛けている。

地域の素材を活かした新たなプロダクト

デジタルとの融合を図る一方で、原点回帰の取り組みにも積極的だ。その一つが、地元の楮を使った手漉き和紙の復活。近年は原料を東南アジアなど海外産に頼ることが多くなっていたが、作品の制作を協力いただいている「鬼北泉貨紙保存会」を中心に、今一度、地元で育てた楮を採取し、増殖させたものを「伊予楮」として原料化しようとしている。古式製法にのっとって無漂白で原料にすることで、楮本来の性質をあえて残し、素朴な色味、絹のような光沢と独特の質感を感じられる。

同時に、佐藤さんは隣接する西予市野村町で生産される貴重な国産シルク「伊予生糸」にも着目。 伊予生糸の元となる繭の中で、規格外になる繭の有効活用を模索した結果、伊予の繭と伊予楮を使った「白椿のアロマディフューザー」というプロダクトが誕生した。

3Dプリンターで椿を模したメッシュの土台をつくり、そこへ伊予楮で漉きあげる。
中心のアロマオイルを染み込ませる部分に伊予生糸の元となる繭を据えた。

伝統工芸を未来へとつないでいくために

古来からの和紙漉きの技術と素材に敬意を持ちながら、最先端のデジタル技術を融合させる佐藤さんの挑戦。 
「今後もいろんなマテリアルをミックスさせて、伝統を残しながらも革新を続け、和紙の可能性を広げていきたい」という想いのもと、名水の恵みを受ける工房「りくう」から、日本の工芸の新たな未来が切り拓かれていく。

ACCESS

りくう
愛媛県西予市宇和町明間1093
TEL 非公開
URL https://requ.jp/
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