自然流栽培とは
『トマト・メロンの自然流栽培』という著書を持つ小川光さんと息子の未明さんのもとを訪ねた。やはり気になるのは著書のタイトルにもなっている”自然流栽培”というものだ。これまでの旅で自然農法で野菜などを栽培している農家の方を訪問したことはあった。しかし自然流とはいったい何だろう。
未明さんはこう説明してくれた。「有機農法ですよ。化学合成農薬はまったくのゼロ。栽培は自然農法に近いくらいですね。ただ、土を耕したり、堆肥をやったりもする。だからまったくの自然そのままというわけではないんです。そのため父は自然流と自分で呼ぶようにしたんですよ」
品種の特性を考え、堆肥の入れ方を工夫することで、作物は育つことを実践している。この農法で育てているのは、多品種に及ぶ。その中でも、特徴的な野菜はメロンとトマトだ。
福島でトルクメニスタンに近い環境を作る
もともと福島県農業試験場などで野菜などの研究、普及に携わり、早期退職をして完全に農業へとシフトした小川光さん。農業試験場にいたときに中心としていたのがトマト、メロンの研究、開発だった。そこで出会ったのがトルクメニスタン原産のメロン。乾燥した地域でもメロンが育つことに着目し、研究のためにトルクメニスタンに長期滞在した。そして、日本に戻るとトルクメニスタン原産のメロンと福島産の瓜を交配させ、日本の環境に合ったメロンを作るようになった。
農園では、自然に降る雨以外では水を与えずに育てているという。
「水をやらないんですか?」と中田も驚く。水を使わないと収量は落ちる。それでも光さんが水を使わない自然流農法にこだわる理由があるのだ。
耕作放棄地を復活させる
福島県は実は日本一耕作放棄地が多いのだと未明さんは教えてくれた。
「畝(うね)の横に溝をほって、落ち葉堆肥を入れて、堆肥に水をすいこませて、無潅水農地をつくる。そうすると山間部の耕作放棄地で、トマトもメロンも育つんですよ。こういう水を引けない場所では、これまでソバや大豆しかできなかったけれど、この農法では耕作放棄地を農地として活かすことができるんです」光さんは耕作放棄地の活用が、地方農村部の過疎化対策にもつながると話す。
実際に光さんは自らの農場で毎年研修生を受け入れて、就農支援を行っているのだ。
もともと有機農法を始めたのは1989年のこと。当時は農薬による健康被害が叫ばれて、食の安全を考えたのがきっかけだ。そこから研究を重ね、現在にいたるのだが最後にこうも語ってくれた。「有機のほうが多様性があるんですよ。それから生態系を大切にしたいという思いもあります」。
作物について深く知り、その特性に合った育て方を行う。福島の山間部での実践は日々続いているのだ。