創業明治11年の酒造
東京都北区岩淵町、一級河川の荒川や埼玉県にほど近いこの場所に、東京23区で唯一残る酒蔵がある。今回お伺いしたのは、明治11年創業の小山酒造だ。
まず出迎えてくれたのは古い木製の酒造りの道具や、手造りの仕込みの様子が写るモノクロの写真、時代の変化を感じさせる展示が並んでいた。
平成14年、東京の地酒としてこの地で酒造りを続けるために、木製蔵から現在の鉄筋コンクリートの蔵に建て替えを行ったという。
「創業当時から冬の寒さを利用した寒仕込みを行ってきましたが、現在は温度管理をした部屋での酒造りに切り替えています。気候を生かした酒造りが、この地では難しくなっていたからです」そう語るのは、常務の小山久理さん。
東京の天然水で仕込む
都市ならではの環境や気候の変化の中で酒造りを続ける大きな理由。それは、自社井戸地下130mから汲み上げる名水にあるという。この仕込み水は、秩父山系浦和水脈の伏流水にあたり、中硬水のスッキリとした美味しい味わいが特徴だ。
「東京都北区岩淵町という場所は昔、湧水の豊富な場所として有名だったそうです。今ではこの辺りで井戸を見かけることもなくなりましたので、ある意味貴重な湧き水と言えるかもしれません。水質は昔から変わることなく、現在もこんこんと湧いています。」
創業者である小山新七がこの湧水を発見して以来、現在まで仕込み水として使用している。この地の味を醸し出すために、なくてはならない“恵み”。この恵みを活かして小山酒造が造るのは、辛口淡麗でキレ味が良く、旨みと飲みやすさが特徴の銘酒「丸眞正宗」だ。
「丸眞正宗」をより美味しく
小山酒造の造る酒の量は年間約400石と、決して多くはない。しかし、「丸眞正宗」の基本は変えずに、時代のニーズに合わせて米を選び、酵母を変えるなど、その酒造りには常に探究心を持ち続けている。
手作業、機械作業、その全体を取りまとめる蔵人の心遣いが、最終的に酒の味を決めると考え、「もっと美味い酒」を目指し貪欲に取り組む姿勢を大事にしているのだ。
「変わらない所と変わり続ける所のバランスが大切だと思います。地酒とは地元の方に愛されてこそだと思いますので、これからも東京の地酒として存在し続けられるよう、変化を恐れず前進し続けていきたいと思います」
古くは多くの酒造があった東京23区、唯一現在もこの地で続ける酒造りは使命にも感じると話してくれた。東京北区の地酒の味わいを毎年楽しみにする人々がいる限り、ひとつひとつ丁寧な酒造りは続いていく。