被災地に実る希望。次世代型農業で人が集う場所をつくる「デ・リーフデ北上」/宮城県石巻市

宮城県石巻市、北上川のほとり。かつて震災で大きな被害を受けたこの地で、被災した建設会社が新たに選んだのはオランダ式農業による復興だった。社名の「デ・リーフデ」はオランダ語で「慈愛(De Liefde)」を意味する。人と土地を想う挑戦が2013年より始まり、今も続いている。

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復興を通して、新たな希望を育てる

2011年の東日本大震災で町が壊滅し、居住禁止区域になった宮城県石巻市北上町釜谷崎地区。「この場所を復興させたい」との思いから、デ・リーフデ北上の挑戦は始まった。

「新しく農業にチャレンジしたい人たちや、震災後に移住してきた人たちが集える場所でありたいと考えています」と語るのは、総務部長の阿部さん。

被災した建設会社が、「農業で復興」を選んだ理由

デ・リーフデ北上の前身は、茅葺屋根を手掛ける建設会社。震災による津波で会社は流され、もともと農地だった場所は地盤沈下と塩害で再生が困難な状態にあった。代々受け継いできた土地が、瓦礫置き場になった姿を見て、会社の代表はしばらく何もできなかったという。転機となったのは2013年。オランダで農業コンサルタントをしている石巻市出身者が、この地を訪れたことにある。

オランダ式農業で、持続可能な仕組みをつくる

オランダ式農業の特徴は、テクノロジーを駆使して温度や湿度、CO2濃度を管理しながら栽培を行う施設園芸であること。さらに、高収量品種に特化して生産し、労働力とエネルギー効率を最大化する。こうした仕組みが、収益力のある農業として実現している。先端技術を駆使した高収益戦略を知り、「石巻を元気にし、雇用の創出や人口増加に貢献できる」と希望を見出し、施設の建設に踏み切った。

2014年、国の次世代型農業支援制度が始まったタイミングで補助金を得て、2016年に本格稼働。被災地に、復興の光が確かに見えた瞬間だった。

石巻の地で、トマトに復興を託す

豊富な日射量があり、夏は涼しい宮城県では、昔からトマトの栽培が行われていた。しかし、震災以降、津波による農地の冠水などの影響により県内のトマト生産量は半減。「トマトは日本で最も食べられている野菜のひとつ。冬でも安定して供給できれば、生産者にも地域にもプラスになる」との思いで、栽培する野菜はトマトと決めていた。施設園芸を行うことで、通年収穫も可能になるとの見込みもあったのだ。

生産性とおいしさを両立。飲食店に選ばれる理由

デ・リーフデ北上が育てているトマトの品種は、「富丸(とみまる)ムーチョ」。日本とオランダの種苗メーカーが共同開発したもので、日本のトマトらしい甘さと、オランダ品種の多収性を兼ね備えている。

富丸ムーチョは加工にも適しており、販売先は飲食店がメイン。日持ちが良く、スライスしても水分が染み出しにくい特徴を説明して、販売先を少しずつ開拓したという。現在はコンビニチェーンや大手ハンバーガーショップなどにも卸している。

農水大臣賞を受賞した、人・環境・地域の好循環を生む農場

一般的なビニールハウスではなく、透過率の高いガラスハウスを導入しているデ・リーフデ北上。1.1haの広さに圧倒されるが、その構造にも特徴がある。高い天井から日射をさんさんと取り込み、空気の循環を良くすることで、平均的なハウスの約3倍もの収穫量を実現。さらに、IT技術を活用して安定出荷や労働環境改善を叶えた。その成果が評価され、2023年全国優良経営体表彰の生産技術革新部門で最高賞となる農水大臣賞に選ばれた。

誰もが働きやすい、やさしい農場設計

水耕栽培の仕組みを活かし、トマトの根の位置を高く設定。床下には作業用台車のレールを設け、立ったまま収穫できるよう工夫されている。体への負担が少ないため、高齢者や女性スタッフも安心して働ける職場だ。

天候に左右されない、安定した雇用の実現

これまで宮城県内で行われていた農業は天候に左右され、雇用の安定化が難しいとされてきた。しかし、デ・リーフデ北上のガラスハウスでは、コンピューター制御による温度管理により、天候に左右されず通年で安定生産が可能。雇用が途切れず、農業の常識を覆す働き方を実現している。

木質チップと雨水循環。環境にやさしい農業へ

燃料には地元の木質チップを利用し、雨水を循環利用。環境負荷を抑えながらエネルギーを自給する仕組みを整えている。さらにLEDライトによる試験栽培では、冬場の収穫量を20%増加させることに成功したという。

次なる挑戦へ。地域とともに歩む未来

2021年には、敷地内にレストラン「リーフデ・テラス」がオープン。食品ロス削減に取り組みながら、年間数千人が視察に訪れる地域の交流拠点にもなっており、地域経済にも貢献している。

また、施設の外ではヤシ殻を培養土として活用したブルーベリー栽培もスタート。山形県の農家と連携しながら、新たな循環型モデルの実現と農業の6次産業化を目指している。

「オランダ式農業をそのまま真似るのではなく、この土地に合った形でさらに発展させたい」と先を見る阿部さん。石巻の地に根を張り、挑戦を続けるデ・リーフデ北上には、震災から立ち上がった人々の、確かな希望が息づいている。

ACCESS

株式会社デ・リーフデ北上
宮城県石巻市北上町橋浦北釜谷崎226
TEL 0225-67-2046
URL http://de-liefde.co.jp/
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