ミニマリズムが根底に流れる「KITAWORKS」木多隆志さんの家具/岡山県津山市

父が始めた溶接工場を原点とする「KITAWORKS」の木多隆志さん。鉄やステンレス、銅、真鍮などの金属と木材を組み合わせて作り出す家具は「ミニマリズムが自分の根底にあり、それが反映されている」と語る。数々の空間デザイナーを惹きつけるデザイン、繊細な加工技術はどのように生まれてきたのだろう。

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注目を集めるプロダクト

1枚のステンレスのパンチング板を曲げて座面と背面に造形したイス、極限まで薄くしたスチールのフレームに木材の天板をのせたテーブル、真鍮のフレームのキャビネットなど、「KITAWORKS」がデザイン、製造する店舗の什器や住宅用家具、インテリアは、デザインはもとより、細部にまで突き詰めた加工が施されている。これらはソニア・パークがクリエイティブ・ディレクターを務める「ARTS & SCIENCE」の京都の直営店や、「暮らすように過ごせる」をコンセプトにホテル、カフェ、バー、ダイニング、ショップを併設した「LOG」、東京・恵比寿ガーデンプレイスの『VERVE COFFEE ROASTERS』等で導入され、インテリアメーカー『AXCIS』とは照明器具などのプロダクトを共同で製作している。

原点は父が創業した鉄工所

「KITAWORKS」のある津山市は岡山県北東部に位置する岡山第3の都市。古くから交通の拠点だった地域で、戦国時代に津山城が築かれて以降、周辺地域の中心的機能を果たし、城下町の風情が今も色濃く残っている。

「KITAWORKS」の原点は、木多隆志さんの父が1978年に創業した鉄工所だ。父の時代には、地元にあったグローバル企業の工場の機械設備製造を請け負い、隆志さんは21歳のときから働いていた。30歳のとき、自宅を建てることになり、新しい家に合った家具や建具を自分でつくろうと木工を独学することにした。鉄工所でつくるフレームと木材を組み合わせたものをいくつか作ると、それを見た友人から作って欲しい、と言われるようになった。折しも機械設備の受注製造が減っていた時期で、仕事になるなら、と本格的に取り組むことを決めた。

機能性と見た目の折り合いを探す

機械設備の製造から、家具やインテリア製造へと方向転換をする際、ポイントとなったのはプロダクトとしての機能と見た目の折り合いだった。たとえば工場に納入するイスは、不具合のない丈夫なものが求められる。しかし生活の中で使うイスは、機能を保ちながら同時にスタイリッシュでありたい。その折り合いを模索することから「KITAWORKS」のスタイル形成は始まった。

根底にあるミニマリズム

木多さんが新しく家具のデザインを考える時はフォルムから考えることが多い。そのフォルムを実現する構造の強度の保ち方に「KITAWORKS」らしさが現れる。鉄のフレームにガラス板をはめ込んだキャビネットを例に挙げると、ガラスをはめ込むための細いフレームに「受け」となる部分を作る。鉄に溝を作り、ガラスの四辺を固定ゴムに包んではめ込むが、厚みが約2cmの鉄に溝を掘るとこと自体が技術的に非常に難しい。しかし木多さんはそこを軽々とクリアして、さらに全体の見た目をすっきりさせるため固定ゴムを外側から見えないよう、隠してしまう。より深い溝を掘って、ガラスを深くはめ込めばそれが叶う。

この作業は、「無駄な線や厚みを消してしまうイメージ」だと言う。キャビネットを作り始めた頃、ガラス業者からどこまで加工できるかアドバイスをもらい実現させた細部の仕上げだ。思いついたフォルムは現実の形にしたい。だから一度作って、足りない部分があれば修正し、補強する。ちょっとした装飾や、ラインの美しい角度を探すことはプロセスのひとつであり、「突き詰めればミニマムになってくるという感覚が直感的にあります。ミニマリズムが自分の根底にあって、それが作るものに反映されていると思います」と語る。

この工場でできることがオリジナリティ

2009年に「KITAWORKS」をスタートさせ、岡山県倉敷市で毎年5月、全国からクラフト作家が集まる「フィールドオブクラフト倉敷」というイベントへの出展を通じて、認知が広まった。「こういうもの、作れますか?」という具体的なオーダーが多く、一度注文した人が知り合いに紹介して口コミで広がり、広島や東京から注文が来るようになった。

現在、よく使っている材料は鉄で、ほかにステンレス、アルミ、真鍮などをオーク材と組み合わせることが多い。鉄にペイントをして仕上げた家具も特徴的で、大量生産に対して、手間暇を掛けて少量生産でも良いものに仕上げることを意識した“スローデザイン”の模範として国際的に高く評価されている「スタジオ・ムンバイ」が手がけた尾道市の「LOG」のバーに納めたテーブルには、初めて漆を塗った。天板は木材で脚は鉄だが、全体に重ね塗りして漆がきちんと乗るともとの素材も違いもわからなくなり、1960年代初頭のアパートメントから創造した空間のなかで正体不明の渋い味わいを見せる。

家具を作るようになって、世界の家具や建築を見るようになり、デンマークのハンス・ウェグナーのYチェアなど名作といわれる家具も実際に使ってみた。好きなヴィンテージ家具も増えていった。それでも「こういうものが面白いんじゃないか」と作り進めていくという点でデザインソースは自分のなかにある。「僕が住んでいるのは岡山県北部の山寄りの場所ですが、そこで感じている自然なんかを突き詰めればミニマルになって、それが家具にも反映されているのかなと思います。この工場で出来ることは限られています。でも逆にそれが個性になっているのかもしれませんね」と語る。

「LOG」のテーブル制作をきっかけに「KITAWORKS」の名前は世界に広がった。国内だけでなく海外からのオーダーもあり、現在は受注制作と自主制作が半々の割合だ。思いついたアイデアは工場ですぐに試行錯誤できることが強みで、時には遊び心のまま照明器具やキャンドルホルダーやトイレットペーパーホルダーなどを作り、機能と装飾とオブジェクト感の折り合いを模索する。

「KITAWORKS」のものづくりにはミニマリズムを軸に「見てかっこいいものを作る」という造形へのこだわりと、父の鉄工所をルーツとした機能性への追求が共存している。素材の特性を生かし組み合わせる感性と細部の陰影にいたるまで計算した加工技術を育むプロセスで唯一無二のスタイルを確立したことにより、今や世界から注目を集める工房となっている。

ACCESS

KITAWORKS
岡山県津山市高野本郷1273-1
TEL 090-3375-7165
URL https://www.kita-works.com
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