料理と酒、両方の味が膨らむ酒造り
神奈川県の西部に連なる丹沢山、大山といった山々はその豊かな自然が地元の人々に愛されている。その山々の麓、足柄上郡山北町にある「川西屋酒造店」は、「丹沢山」という銘酒を造り、神奈川県内のみならず全国的にも人気を集める酒蔵だ。
取材を始めて早々、社長の露木雅一さんが“求める酒”について語ってくれた。「日本の食文化には出汁がありますね。昆布や魚でとった出汁で料理をする。その味と合う酒、私たちが求める酒は、ただ味が良いのではなく料理と合わせたときに両方の味が膨らむような酒なんです」。酒米の味を引き出し、さらに料理と調和する酒を醸す。そのためには、米の特徴を見極める経験と、きめ細やかな作業が必要となる。その酒造りを担うのは杜氏の上川修さんだ。
出来たばかりの蒸米を見ながらお話を伺う。酒米を蒸かす前に、水にさらし吸水させる「浸漬(しんし/しんせき)」という作業もとても重要だ。「水にさらす時間は、米によって10秒単位で計ります。そうしなければ、こういう蒸米にならない。蒸米の出来上がりで、酒の味の幅が決まります。」そう語ってくださった。
手作業の麹造りで生まれる日本酒
麹室(こうじむろ)の中には、麹を寝かせている麹蓋(こうじぶた)が並んでいた。「麹菌が育つには、湿度と温度管理が大事ですね。現在は機械化が進んで、機械で温度管理するというのは空気を送るという方法でしょう。でも私たちの手造りというのは、あくまで、麹を広げるということや、布をかける、はずすといった温度調節です」と上川さん。麹造りの担当者は夜も2回は麹を確認し、室の温度調整するのだという。
例えばね。と、見せていただいた麹。麹蓋の半分まで麹が積まれていた。これは“盛り”という状態。この状態で菌が育ち、温度が上がると、少しずつ麹を広げる。そして、麹の温度を均一に保つのだ。
「ちょっと、食べてみてください。じわじわと甘みがくるでしょう。」と露木さん。「じっくり時間をかけて発酵させて味を引き出し、そして酒を寝かせて、お燗にも耐えられる酒を造りたい。しっかりとした味わいがなければいけないんです。」日本酒の大きな魅力、麹は生きているということ。お二人が麹をより深く知ろうという姿勢は、まさに酒と共に生きているのだと感じさせられた。
お燗でも味わいが増す酒
日本酒の楽しみ方について露木さんは「お燗でも味わってほしい」という。試飲させていただく際には、日本酒をお燗につける担当の方まで登場し「お燗のプロですか?!」と中田も思わず驚く。「丹沢山」はお燗にすることによって、口の中でより味わいが広がるのだ。もしお燗をあまり飲んだことがない場合は、自分好みの温度を探してみることも楽しみのひとつではないだろうか。
また、川西屋酒造店は「隆」という銘酒も造る。1年熟成、2年熟成と味わいが全く異なり、美しいバランスと味わいを持つ。全国でも数十件の特約販売店で取り扱われるという、渾身の酒だ。手造りの良さを活かし、研究を重ね、酒造りに情熱を傾ける川西屋酒造店。これからの酒造りにも注目していきたい。