時代によって変わる用途
鎌倉に古くから伝わる鎌倉彫。花鳥風月さまざまな文様を彫りいれ、そこに黒漆を塗り、さらにその上に朱などの色漆を塗って仕上げた工芸品。現在はお盆やお菓子の器、茶道具など、日常の生活のなかに見ることが多いが、実は生活用品としての生産が始まったのは、明治時代以降のこと。
もともとは鎌倉時代に中国から禅宗が伝わったときに一緒に輸入されてきた堆朱(ついしゅ)や堆黒(ついこく)といった彫漆品の影響を受け、仏師や宮大工たちが、木の器に彫刻を施し、漆をぬり重ねたのが始まりだと言われている。寺院の建築に施された他に、須弥壇や香合などが作られていた。つまり全て仏教に関わるものが彫られていたのだ。鎌倉彫の一番の特徴はこの始まりにある。室町時代になると茶の湯が盛んになり、茶道具としても広まっていく。そして明治期以降に生活用品が作られるようになるのだ。
エキスパートがつくりだす
今回お話を伺いにいったのは、代々仏師として仕事をしてきた博古堂だ。明治期から鎌倉彫の作品にも力をいれ、1889年のパリ万国博覧会にも出品したという、老舗鎌倉彫工房だ。
制作の現場を見学させていただいた。彫り、塗り、研ぎの作業を、職人さんたちはすべて分業で行う。大きく分けて7つの工程があるが、すべてがエキスパートによってなされる技なのだ。
制作の第一工程”彫り”を中田は体験させてもらった。お盆の中央に描かれた下絵を頼りに彫刻刀を入れるが、堅くてまったく歯が立たない。思ったように彫刻刀が動いてくれないのだ。しかし指導をしていただいた職人さんは、グッグッと力強く木を彫っていく。この体験だけでも、木材と向き合う緊張感や、職人のエキスパートたる所以を感じることができた。
鎌倉時代から数えて約800年。仏教文化にかかわる用具を作り、現在は生活用品として使われるようになった鎌倉彫。その歴史をささえているのは、職人さんの確かな腕なのだ。