手びねりのフォルムと描かれた”絵”
エンジのパーカー、グリーンのパンツに、スニーカーといういでたちで出迎えてくれたのは、若き陶芸家・澤田勇人(はやと)さん。澤田さんの作品は、象嵌や絵付けで器に描かれた線や表面の陰影が印象的。しかし、手びねりで制作をするために、全体的には温かい雰囲気を醸し出す独特の器だ。 「長く伸びるものが好きなんです。」と、高さのある花器を見せていただく。澤田さんはフォルムとともに、”絵”にこだわりを持つ。例えば漆器で象嵌をするというと、普通は表面を平らにするが、澤田さんはあえて凸凹をつけることで陰影を出し、作品に立体感を出す。 地の土の色は、焼いたときに薄いグラデーションが出るように、部分ごとに土の配合を変えて焼いている。色の小さな変化でも完成したときに作品の印象を大きく変えるのだ。
陶芸家の家に生まれて。
澤田さんは父親が陶芸家という家に生まれた。だから小さいころから陶芸に慣れ親しんでいたのだろうと思ったらそうではない。むしろ反対で、自分が陶芸をするなどまったく考えもしていなかったという。ごく普通に高校卒業後には一般の大学へいき、このままサラリーマンになるんだろうなと思っていたそうだ。しかし学校に行っているときに「今やれることをやりなさい」と言われ頭に浮かんだのが陶芸。それで思い立って父親の手伝いを始めた。するとこれが思った以上に面白い。澤田さんの陶芸人生は、そこから始まったのだ。
独学で見つけ出す独自の世界観。
では、陶芸家である父親から指導を受けたのかと思えば、そうではない。ここがまた面白い。父親から何かを指導されたことは一切ないという。 父の仕事場の片隅をかりて、そこからはすべて独学で作陶を学んだ。
ちなみに父親はろくろ、自身は手びねり。 「だから手びねりしかできないんです。ろくろは父がずっと使ってるんで、僕はこっち側のスペースで手びねりで。逆に父は手びねりができないんですけどね…」 門前の小僧習わぬ経を読むというが、盗めるところは盗み、勉強できるところは勉強をして、自ら独自の世界観を紡ぎ出していったのだ。
新しい作品にもどんどんチャレンジする。現在は手びねりでお皿を少しずつ作っているという。たたら技法のように面を生かした皿とはまた違う、柔らかい表情のものが手びねりだとできあがるそうだ。自ら探し求め世界観を作っていく若き陶芸家。これからどんな作品を紡ぎ出してくれるのか楽しみだ。