甘さと酸味のバランスの難しさ。
ひとつトマトをもぎとって手渡してくれる。まだ青みの残ったトマトだったが、すごく甘い。取材時に食べることのできたトマトはまだ糖度が10度ぐらいだったが、熟すと14度にまでなるそうだ。つまりちょっとしたいちごよりも甘いトマトにまでなるのだ。
「ただし…」と宮澤農園の宮澤竜也さんは言う。「そこまで甘くしてしまうと、熟しすぎて食感が崩れてしまうんです。それから”トマト”っていう味がなくなってしまう。だから甘ければいいっていうものでもないんですよ。そのバランスが難しい」甘味と酸味のバランスがトマトの魅力。しかも「少し青いぐらいで酸味が強いもの、食感も固めのものが好きな人もいれば、完熟トマトが好きな人もいる。好みはそれぞれなので、難しいですよね」と言う。
トマトとフルーツトマトは同じもの!?
とうもろこし農家を訪ねて、ヤングコーンととうもろこしは収穫時期の違いで、同じ種のものだと聞かされたときにも驚いたが、実はフルーツトマトとトマトも同じ種。育て方を変えれば、普通のトマトにも甘いフルーツトマトにもなるそうだ。 「中田さんがサッカー選手になったのと同じ。野球選手にだってなれたわけですよね。品種は同じですが、環境と育ち方の違いなんです」 ただし話はそこで終わらない。
富澤さんは「オリンピック選手を育てている」というのだ。宮澤さんは水耕栽培でトマトを作る。その育て方だと、何段もの房ができるのだが、ここでは3段目までしか栽培しないのだ。根元から順に肥料分と水を吸い取って育つので、伸びれば伸びるほど、成長も遅くなるし、病気にもなりやすくなる。そのため、3段目までの選りすぐりだけを商品として選別しているという。というわけで、オリンピック選手なのだ。
すべて自分に返ってくる責任。
宮澤さんはサラリーマンをやめて、農業という道に入ったのが6年前。やはり一番違うのは、「すべて自分の責任」ということだという。だから「ひとつひとつの作業の重み」が違うという。 フルーツトマトは温度調節が非常に大事な作物なのだが、2011年の東日本大震災のときは、ハウスに故障が起き温度調節がままならずに、栽培していたトマトが全滅してしまったという。それは収入に直結する損害だった。そういったすべてが自分に跳ね返ってくる。しかし、お客さんから高評価を得れば、それはすなわち自分の評価になる。 人と関わっているという実感がとても大きいのが今の農業。そこが魅力だと話してくれた。