ふるさとの恵みの土と熟成を重ねて生まれた「みよい農園」の日本一甘い有機カボチャ「くりりん」/北海道森町

ふるさとの恵みの土と熟成を重ねて生まれた「みよい農園」の日本一甘い有機カボチャ「くりりん」/北海道森町

ひときわ甘い有機カボチャ「くりりん」をつくる農家が北海道・道南エリアの森町にあるという。そんな特別なカボチャを手がけるのが無農薬・有機栽培を究めるみよい農園の明井清治さん。レストランや菓子店からも絶大な人気を誇る、安心・安全はあたりまえ。こだわりぬいたカボチャづくりのこれまでについて伺った。

海と山の恵みを享受する豊かな「食」のまち

札幌市からは約4時間、函館市からは約1時間に位置し、渡島半島の内浦湾駒ケ岳に接する道南の自然豊かなエリアにある森町。そもそもは森町・砂原町の2つが合併して誕生した町で、古(いにしえ)より農業と漁業がさかんに行われてきた。かつては水産資源の一つであるニシンを求め、周辺エリアからも出稼ぎに訪れる漁民がたえなかったという。現在はカキやホタテの養殖業も行われ、ご当地グルメの「イカめし」と共に同町を代表する名物だ。

森町はまた、美味しい農産物の宝庫でもある。以前はスイカやメロンの一大産地として知られ、米や豆類をはじめさまざまな農産物が生産されてきた。中でもカボチャに関しては随一で、「みやこ南瓜(カボチャ)」では日本一の産地の称号を手にしている。この地で栗のように甘く厚い果肉を持つとっておきのカボチャ、「くりりん」を育てているのがみよい農園である。その作付面積は東京ドーム8個分にも及ぶ広大さだ。

早くから無農薬・有機栽培を目指す

みよい農園でカボチャづくりを営むのは2代目の明井清治さん。スイカやメロンづくりを手がけてきた先代の父から農園を受け継いだのは20歳の頃。ちょうど45年前のことだ。有機栽培という言葉さえなかった時代だったが「安心、安全なこれまでにない野菜作りを」との思いから、まずは無農薬栽培に着手したという。それは病虫害との戦いの歴史でもあった。

作物の成長を促進する化学肥料を使えば、手間なく野菜を育てられるが、病気にもなりやすい。そこで明井さんは思い切って、無化学肥料栽培に舵を切った。食への関心が高まり、現在ではさまざまな人が手がけている有機栽培だが、「当時は参考になる農法も見当たらず、手探りで進むしかなかった」と話す。

生態系を生かした土作りにこだわり続けて

そこで明井さんは、無農薬で生産していると聞けば、どこにでも飛んで出かけた。その先で、どんな生産者も口を揃えるのが「土作り」の大切さだった。無農薬であれば牛糞や鶏糞を用いる畜糞堆肥しかないのだと。しかし土作りを一から教えてくれる人はどこにもおらず、明井さんの疑問は深まった。自らの住む森町には、手を加えずとも豊かな自然が存在する。森で散った葉は土の上に降り積もり、微生物に分解され腐葉土なり、さらに栄養として蓄えられ、木々がまた栄養を吸収し…そして溶け込んだミネラルが海へと流れる。生態系では自然にそんな営みのサイクルがあるのだから、循環を畑の土にも取り入れられるはずだと。思い起こせば、ふるさとの内浦湾は別名噴火湾とも呼ばれ、ミネラルは海にあったものだと考えた明井さんはホタテ貝を養殖する際に貝に付着する海藻やフジツボ等の付着物をミネラル分として畑の土にしようとひらめく。さらなる試行錯誤を経て、海のミネラルの堆肥化に取り組んでいく。

新しいカボチャ「くりりん」との出会い

火山灰の土地である森町は、先述のようにスイカやメロンの栽培がさかんなエリアだった。一方で他の産地との競合もあり、新たに目玉となる作物が求められていた。森町は年平均気温7〜8℃、一番寒い2月でも-7℃ほど。冬場-15℃を記録する場所がある北海道の中でも比較的温暖な土地だが、昼夜の寒暖差は大きい。カボチャや芋類は昼夜の寒暖差があればあるほど、デンプン質をスピーディーに糖度に変えるため、とても甘くなる。森町はもともとが甘いカボチャ栽培に適した土地なのだ。

明井さんは土作りと同じように、自分たちの畑に合った品種探しにもこだわった。地域の名産「みやこ南瓜」も美味しい品種だが、天候条件で花茎が変わるなど栽培に工夫が不可欠となる。他にはない付加価値を持ったカボチャを探していたところ、実験的に販売されていた品種「くりりん」と出会う。厚い果肉、食欲をそそる濃い黄色、ホクホクした食味、驚くほどの甘さ。これまで見てきたどの品種とも違う、「このかぼちゃを育ててみたい」と明井さんは思った。それからは種苗会社と協力し「くりりん」の試作を重ね、今では農園で生産するカボチャの100%を占めるまでになっている。

熟成によりギネス級の高糖度を実現

みよい農園は広大な畑の他、熟成庫と加工場も有する。ビニールハウス3棟からなる熟成庫では、8〜9月に収穫したカボチャの糖化を早めるため、最高50℃まで庫内の温度を上げて寒暖差を作り出している。

北海道ならではの貯蔵方法として「越冬キャベツ」や「越冬じゃがいも」など、低温下で野菜自身が凍結から身を守ろうと糖度を上げる作用を利用した熟成方法はよく知られているが、みよい農園ではカボチャの収穫時期に自然の寒暖差がさほど見込めない為、こうして人工的な温度差を作り出し熟成させる方法を編み出したのだ。

もちろん、カボチャに含まれるデンプン量が多くないといくら熟成させても甘くはならないので、実にしっかりデンプンを蓄えたカボチャを作り上げるのが生産者の腕の見せどころである。

「夜間の最低気温が25℃であっても、50℃の熟成庫に保管すれば温度差を広げられる」と明井さん。ここに2週間貯蔵することでデンプンが糖分に素早く変化し、水分も抜けて「くりりん」の甘みは一層凝縮するという。加工場では収穫後にカボチャペーストを作っている。

明井さんによれば、「くりりん」は甘いだけでなく、渋味となるアク、つまり硝酸がない。そのため一般的なパンプキンスイーツに使われるシナモンなど香料は不要であり、カボチャそのものの甘みが楽しめるという。全国の有名菓子店がこぞってみよい農園の「くりりん」を使うのも納得できる。

無農薬・有機栽培を新たな担い手へとつなぐ

人間が生きていく上で「食べるもの」と「エネルギー」は不可欠だと話す明井さん。世界的な干ばつなど異常気象はもはや農業だけの課題にとどまらないともいう。食料のほとんどを輸入に依存し、自給率が低い日本では、家畜の餌となるトウモロコシも海外から入手しているのが現状だ。「化学肥料の原料もすべて海外に依存しているんです。このままだと単なる値上げの問題だけでなく物資、『食べるもの』がなくなってしまう」と危機感をあらわにする。

その意味でも明井さんは、ふるさとである北海道の果たす役割は大きいと考えている。北海道にある自然の営みに感謝し、この環境を維持すべく奮闘し続けたいという。さらには自然のサイクルはそのままに、微生物で土を作る微生物応報など、循環型の持続可能な農業の技術を後進に伝えることも自分に課せられた役割だと。

実際、明井さんのもとにはさまざまな農家がアドバイスを求めて集ってくる。カボチャに限らず、レタスやアスパラまで幅広く「食べるもの」の未来を考える農家が多く、若い世代も少なくない。「まったく農業経験のない若い人は特に研究熱心。例えば檜山郡で無農薬・有機栽培のアスパラ農家を営む長谷川博紀君(アスパラ専門農家ジェットファーム代表)もそう。学ぶ姿勢がまっすぐで、考え方が柔軟だから教えたことをすぐに吸収してくれるんです。その結果が彼のつくるアスパラに表れている。すごくおいしいアスパラに」

誰もが安心して口にできる農作物を全国へ届けたい

特産農作物をただ作り続ければいい時代は終わりつつある。

有機栽培による「食の安全・安心」、どの品種よりも甘くておいしい「品質」。早い段階でこの2点の重要性に気づいた明井さんは、まさに先見の明に長けていたと言えるだろう。

「無農薬栽培に着手してから30年以上もがき続けて、ようやくかぼちゃの品質が理想形にたどり着きました。年に一度、専門機関で『くりりん』の成分分析を行っているのですが、うちのカボチャは硝酸イオンがほとんど残ってなくて、抗酸化力が飛び抜けて高いんです」

硝酸イオンは自然界のどこにでも存在して野菜の育成には不可欠な化合物だが、人体に取り入れると亜硫酸に変化し中毒症状を起こすことがあり、特に乳幼児やお年寄りの過剰摂取は控えた方が良いとされている。抗酸化力とはご存じの通り、疲労や老化の原因につながる活性酸素の働きを抑制・除去する力のことだ。「くりりん」はおいしいばかりか人の体にいい農作物ということが、データでも裏付けされているのである。

「食の安心・安全を求める消費者の声は高まる一方」と明井さんは言う。

環境や健康に配慮した有機農業は、これからの日本の食を支える柱のひとつとなるだろう。自分だけでなく、誰かの大切な人たちまでもが安心して口にできる農作物を多くの人に届けたいと、自らの技術を惜しみなく後進たちに伝える明井さんの姿に、日本の農業の明るい未来が見えた気がした。  

ACCESS

みよい農園
北海道茅部郡森町字駒ケ岳589-3
TEL 01374-5-2345
URL http://miyoi.jp/