「極茶人」の異名を持つ園主が営む、茶工房比留間園。
狭山茶の産地として知られる埼玉県入間市では比較的新しい、創業40年余りの茶園です。
手もみ茶を始めとした様々な茶を手掛け、その異名の通り極上の品質にこだわって栽培から製茶、販売まで行っています。
ひとつひとつのお茶の葉と向き合う「手もみ茶」
手もみ茶」と聞いて、どんなお茶かわかる人は、相当な通だろう。一般的な日本茶が茶葉を機械で乾燥させるのに対し、手もみ茶は文字通り手でもみながら乾燥させる。熟練の茶師が長い時間をかけて仕上げた手もみ茶は、1枚の葉を丁寧に巻いた針のような形状になる。最高級のものは、1kgあたり100万円を超えることもあるという。この手もみ茶の伝統は、狭山茶で知られる埼玉県入間市で脈々と受け継がれている。そんな入間の見渡す限り広大な茶園が広がる金子台地に茶工房比留間園はある。
「他の産地は、茶農家、加工業者、販売業者と分かれているところが多いんですが、狭山茶の場合は、ぜんぶ自分でやる人が多い。だから伝統の手もみ茶の技法が受け継がれているんだと思います」と比留間さん。一貫して行うことで茶葉の微妙な変化を感じとることができ、美味しいお茶が作れるのだろう。
「揉み方にも順番があるんです。回転揉み、揉み切り、でんぐり揉み、こくり揉み。葉の温度と湿度を手で感じながら揉み方を変えていきます」
焙炉(ほいろ)の表面温度は40℃~50℃程度、蒸された茶葉が湯気をあげながら比留間さんの手によって“舞って”いく。こうして空気を送り込みながら徐々に乾かしていくため、長いときは6時間ほどこの作業を続けなければならないという。中田もチャレンジしてみるが、ひと抱えほどもある茶葉全体に均等に熱を加えるのは至難の業だ。ひとつひとつの茶葉と触れ、向き合うことで機械では出せない味を出している。
農林水産大臣賞7度受賞の茶師
比留間さんは、全国手もみ茶振興会の会長も務め、茶師の最高栄誉とされる農林水産大臣賞を7度も受賞している“極茶人”だ。またお茶を追求するあまり、極上手もみ茶のための新しい淹茶法「八重奏(やえのかなで)」を編み出したほどである。そんなお茶に並々ならぬこだわりを持つ比留間さんが中田に手もみ茶の手ほどき。手もみ茶になるのは、収穫二週間前に茶木を被覆する玉露の最上級の一番茶、しかも手摘みした一芯二葉のみ。これを焙炉(ほいろ)と呼ばれる下から弱く加熱して、乾燥させながら茶葉に手作業を加えられるように工夫された専用の台で丁寧に手もみしていく。
「手の感触だけでなく、色や匂いや重さを感じながら、丁寧に揉んでいきます。この感覚が身につかないと、いい手もみ茶はできないんです」
おいしい手もみ茶の飲み方
熟練の職人が手間ひまかけて作る手もみ茶。その飲み方は、2~3本の手もみ茶に、ほんの数滴の湯をかけて、その“しずく”を味わうというもの。これを口に含むと、数滴とは思えないほどの味わいと香りが口いっぱいに広がり、なんともいえない幸福感が訪れる。綺麗に茶葉が開くと、乾燥前の茶葉そのものの姿が再現されるのも面白い。この茶が高価な理由は、飲めばわかる。かなりの高級品だが、求めやすいよう、少量で販売されているので、見かけたらすぐに買ってみることをおすすめする。機械化が進み、美味しいものが簡単に手に入ってしまう現在だが、手間暇かかっている物をじっくりと味わうのも良いだろう。
伝統を大切にしながらも斬新さを求めて、茶の研究や技術開発を行ってきました。手摘みや手もみによって時間をかけて丁寧に作られた上質な茶、花や果実のような華やかな香りが立つ新境地の茶を、ぜひご堪能ください。