優雅で繊細な伝統工芸 「駿河竹千筋細工 黒田英一」/静岡県静岡市

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江戸時代から伝わる駿河の竹細工

伝統工芸士 黒田英一さんの指導を受けながら、中田が真剣な顔で作業している。
繊維に沿って割った竹を石油コンロで熱した胴乱に押し当てて丸く輪の形にする。
その輪に、直径1ミリほどの穴を次々に開けていくのが黒田さん。
中田は細い竹ひごを電気ゴテでなだらかに曲げ、黒田さんが作った穴に1本1本はめ込んでいく。
竹ひごに少しでもゆがみがあると、仕上がったときに、全体の線がきれいに見えない。とても繊細さが求められる作業だ。

中田がチャレンジしたのは、江戸時代から駿府に伝わる「駿河竹千筋細工」(するがたけせんすじざいく)と呼ばれる竹細工。
竹ひごを湾曲させたり、編み上げたりと様々な加工を組み合わせ、花器や菓子器、あんどん、虫かごなどが作られる。江戸時代に武士の内職として作られ始め、東海道を行き交う人たちにみやげ物として重宝された伝統工芸だ。

伝統と新しさを兼ねそろえた黒田さんの作品

黒田さんの家では、黒田さんが生まれる前から、駿河竹千筋細工の作品に漆を塗って仕上げる仕事をしていた。母方の実家では祖父や叔父が竹細工に携わり、家の周りもみんな職人さんという環境。しかしそんな町も、黒田さんが14歳のとき、静岡大空襲で何もかも焼けてしまった。
16歳で疎開先から戻った黒田さんは、「とにかく手に職をつけよう」と叔父に弟子入りし、5年後に独立を果たした。それ以来60年以上、駿河竹千筋細工ひと筋で制作を続けている。

黒田さんの作品は、独創的な新しい形が特長だ。
「常に時代に合わせた新しい物を作っていかないと、伝統もなくなってしまうからね」ということで、日常の風景や物の形からヒントを得て、新しい形や編み方に挑戦している。
そのものづくりの功績が認められ、2007年には瑞宝単光章を受章した。
現代の感覚にもマッチするその作品は、茶の湯の席や和室だけでなく、洋室に飾る和風インテリアとしての人気も高い。
繊細に作りこまれた駿河竹千筋細工は持つ人を優雅な気持ちにさせてくれる。

黙々と無言で作業していた中田は、やがて顔を上げて「うまくできたでしょ!」と親指を立てた。
笑顔でうなずいた黒田さんは、「うまい!」とひと言。
駿河竹千筋細工、しっとりとした花器ができあがった。

ACCESS

有限会社 竹工房はなぶさ 黒田英一
静岡市葵区田町1-15
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