繊細な竹ひごから作品を創り出す「駿河竹筋細工・みやび行燈」

繊細な竹ひごから作品を創り出す「駿河竹筋細工・みやび行燈」

日本国内には約600種類もの竹が生息していると言われている。他の植物と比べて成長が早く、わずか三年ほどで利用できることや、強度や弾力性に優れていることからも、かごやざる、箸などの日用品から農具、インテリアまで、さまざまなものに形を変え、古くから日本の生活を支えてきた。竹細工の産地も全国あらゆる地域にあって、花籠(カゴ)や茶碗籠、ざる、などを起源とする地域もあるが、静岡の駿河竹千筋細工(するがたけせんすじざいく)のはじまりは、徳川家康が鷹狩りをするための餌箱を作らせたことで、その後、虫籠や絵筆、花籠などを販売する店が増えていったらしい。駿河竹千筋細工の特徴的は、とにかく細かいということ。他所では1.2~1.6ミリくらいの平らな竹ひごを作ってそれを編むのが一般的だが、駿河竹筋細工では、竹を縦割りにし幅と厚みを決め棒状にした丸ひごを使用する。その厚みは細いものでは0.3~0.4ミリとかなり細い。竹に熱を加えて曲げる技法や独特な継ぎの技法を駆使している点も、他の地域の竹細工とは異なっている。明治期にはウィーンで行われた国際博覧会で日本の特産物として出品され、竹ひごのかもしだす繊細な雰囲気、東洋特産の竹の妙技は西欧諸国の特産品をしのぐ好評を博し、これを契機に多くの製品が海外へ輸出されたそうだ。

「駿河竹千筋細工は『三尺のなかに千本の竹の筋を通す』といわれています。他の産地が竹を“編む”のに対して、ここでは“組み立てる”んです。農具から発展した他の竹細工と違って、鈴虫を入れる虫かごから始まったので、そうなったと言われています」(みやび行燈製作所・杉山茂靖さん)

杉山さんは駿河竹千筋細工を営む家の三男。高校卒業後、大阪の人形店に勤めた後「駿河竹千筋細工」の伝統工芸士・渡邊鉄夫さんに師事し伝統の技を受け継いだ。杉山さんの作品は高級ホテルや旅館の設えにも採用されたり、照明作家とのコラボレーションで制作した作品が全国伝統的工芸品公募展の経済産業大臣賞を受賞するなど、工芸界でも高い評価を受けている。工房には、虫かごや風鈴、会社名になっている行燈などさまざまな竹細工の作品が並んでいる。そのなかでもひときわ目を引くのが、虫かごをふた回りほど大きくしたようなバッグだ。

「ここ数年、バッグが人気ですね。若い世代の方が多く買ってくれているようです。竹のバッグは夏しか使えないという人もいますが、僕はそれでいいと思っているんですよ。季節を楽しむバッグがあっていいじゃないですか。竹細工のピークは10年後、20年後。すごくいい色に変わっていきます。最新の車より、クラシックカーのほうが楽しかったりするじゃないですか。夏しか使えない竹細工の不便さを楽しむのも粋なんじゃないでしょうか」(杉山さん)

竹細工は修理しながらずっと使うことも可能だ。経年しながら風合いが変わっていく様を楽しむのもいいだろう。昔ながらの技術を守りながら、時代にあわせて進化を遂げる。そうして駿河竹千筋細工の伝統は次世代へと受け継がれていくのだ。

ACCESS

みやび行燈製作所
静岡県静岡市葵区四番町11-8
URL http://miyabiandon.shop-pro.jp/