トマトと言えば、夏野菜——。
新潟県の北部にある「曽我農園」は、そんな常識を覆すような厳冬育ちのトマトを栽培するフルーツトマト専門農家です。
こだわったのは、トマトにとって高負荷となる「厳冬期」の環境と「土」での栽培。
農園自慢のトマトは、大きさこそ小ぶりながらも濃厚な甘みと旨みがギュッと詰まっています。
「曽我農園」のこだわりトマト
新潟県がトマト消費量の上位県であることはあまり知られていない。中でも新潟市北区の豊栄地区・濁川地区は、全国的な知名度は低いものの、県内では最大のトマト生産量を誇る地域だ。その秘密は、信濃川と阿賀野川、ふたつの大河によって育まれたこのエリア独特の肥沃な土壌にある。フルーツトマト専業農家として他の農家に先駆け1990年代からフルーツトマトの生産を始めた「曽我農園」もまた、この土地の恩恵を受けている。
トマトといえば夏野菜のイメージが強い。陽光をいっぱいに浴びて真っ赤に生育する姿を想像しがちだが、曽我農園のトマトの収穫は主に4月~6月。秋に栽培が始まり、雪国の冬を乗り越えて美味しくなる「越冬(えっとう)トマト」なのだ。そもそもフルーツトマトというのは、特定の品種を指すのではない。普通のトマトと同じ品種を使いより糖度が高く作られているものを「フルーツトマト」と表現しているに過ぎない。標準的なトマトの糖度は5~6度でと言われているが、曽我農園では糖度8以上ものをフルーツトマトとして扱い、糖度9~10のものを「越冬フルーツトマト」として販売している。糖度10度ほどと言えばスイカやみかんなどと並ぶ甘さだ。その芳醇ともいえる濃厚な甘みを生み出すのが、肥沃な土壌であり、新潟特有の気候なのだ。米所らしく米の籾殻を加えた特別な土を使っている点も見逃せない。
「越冬トマト」の驚きの栽培方法
曽我農園では、現在市場に出回っているほとんどのトマトの品種である「桃太郎」の登場により衰退したが、昭和の時代に一世を風靡したファースト系という酸味の強い品種を使い、時間をかけて甘みをじっくりと引き出していく。独学で試行錯誤を重ねてきた曽我新一さん(曽我農園代表)は、その生育方法を、「トマトにストレスを与えてしっかりと甘みを蓄えさせる。アスリートに筋トレをさせるようなものですね」と表現する。具体的には、栽培期間中のトマトに与える水分を制限し、冬から春の寒暖差を経験させる。冬はハウス内の温度を生育できるぎりぎりに抑えて越冬させ、春の訪れによる昼夜の温度差で刺激を与え栄養をつけさせる。トマトの栽培方法としては異例だ。実際、生育に失敗して全滅させてしまった年もあったという。それでも「日本一美味しいトマトを作りたい」という想いが、個性の際立つフルーツトマトを誕生させた。そして2012年ついに野菜ソムリエサミットで金賞を受賞する快挙を果たした。「おいしさ」を軸に食味が優れたものを認証するこの賞を受賞したことで名実ともに日本一のトマトを完成させた瞬間だった。
小ぶりだが、甘みと旨みがギュッと詰まっていることは、真っ赤に実ったフルーツトマトを手にとってみればすぐわかる。普段目にしているトマトよりもずっしりと重い。水の中に入れると、普通のトマトは浮き上がるが、越冬フルーツトマトは底に沈むのだ。最小限の水やりで育てることで、トマトが乾きから身を守ろうと自身の果肉の中に栄養分と共に水分も蓄えた結果である。またトマトのおしりに現れるスターマークと呼ばれる放射状の筋が、くっきりと数多くみられるトマトは美味しいトマトなのだと、見分け方のポイントを曽我さんは教えてくれた。
数多くのポテンシャルも持つ「越冬トマト」
フルーツトマトはそのまま食べても甘みが濃くて美味しいが、トマトジュースやケチャップに加工した場合もそのポテンシャルが発揮される。ケチャップはJAS規格によって糖度があらかじめ決められているが、曽我農園の「越冬トマト ケチャップソース」は、砂糖を加えることなく、時間をかけて煮詰めたトマトだけの自然の甘さだけでそれを実現している。もちろん着色料・保存料は使用していない。パスタソースの代わりに使ったり、オムレツにかけたり、カプレーゼのような料理にもよく合う。大切な人への贈り物にも最適だ。「毎年、直売所にはリピーターの方がたくさん来てくださいます。これからはもっと生産者と消費者の距離を縮めていきたい」と、フルーツトマトの可能性をさらに追求する姿勢の曽我さん。トマトの名産地としてこの地域が有名になる日は、そう遠くないかもしれない。
新潟の厳冬を越すことで負荷と回復を繰り返し、高密度に肥大したトマトは、例えていうなら筋肉のようなものです。常に最高のトマト作りを実現するため、自然の力を借りながらも時に抵抗し、その年その年の風土を読み解きながら畑のデータ採取や観察を欠かさず、日夜研究に精進しています。