豚にも人にも幸せを。循環型農業に挑戦するポークランドグループ代表・豊下勝彦さん

豚にも人にも幸せを。循環型農業に挑戦するポークランドグループ代表・豊下勝彦さん

秋田県北部に広がる鹿角盆地の北に位置する小坂町は、十和田湖と広葉樹の森が広がる自然に恵まれた地だ。ブナやナラ、カツラなどが生い茂る樹海は、腐葉土を育み、この地に清冽な水をもたらしてくれる。古くから変わらない自然の営みを、農業に、そして養豚に生かそうと考えたのが、ポークランドグループの代表・豊下勝彦さんだ。

1995年に母豚1500頭からスタートしたポークランドグループは、現在、「ポークランド」「十和田湖高原ファーム」「ファームランド」「バイオランド」の4つの農場で、豚特有の病原菌を持たないSPF豚(清浄豚)である「桃豚(ももぶた)」を出荷している。SPFとは Specific(特定の) Pathogen(病原体) Free(無い)の略で、あらかじめ指定された病原体を持っていないという意味を示している。「桃豚」はポークランドグループが独自に飼育するブランド豚で、お肉の色が淡いピンク色である事や、ピンクが幸せを連想させる色である事から、食べる人も豚も幸せであってほしいという思いを込めて付けられた。現在のポークランドグループの年間出荷頭数は約15万頭と大規模な養豚場へと成長した。

今から26年前、畜産の経験などまったくなくこの業界に入った豊下さん。だから逆によかったのかもしれないと話す。当時の養豚は抗生物質や薬品の使用が多く、それが普通の状態だったのだそうだ。単純にそういう豚を自分で食べたくなくて「食の安全」を追求した養豚を始めようと、抗生物質や薬品に頼らない肥育方法を模索した。薬品を使わないのであれば、豚を病気にはできない。豊下さんが行き着いたのがBMW技術だった。B=バクテリア、M=ミネラル、W=ウォーターの略で、土中のバクテリアと石のミネラルを利用して、汚水を浄化する技術だ。自然循環型の有機農法を目指す農家が増える近年、世界的に広がりを見せている取り組みである。

また、豚は病気に弱いこともあり、農場内に病気を持ち込まない防疫管理を徹底。農場内を走れるのは専用車のみで、出荷にももちろん専用車を使用している。また、豚舎へ入るスタッフは必ずシャワー入浴してから入るようにした。こうして完全に場内と場外を隔てることで、ポークランドグループは、「日本SPF豚協会」の厳格な審査で知られる「SPF農場」の認定を受けるまでになった。

案内された豚舎に行って見ると、通常の豚舎のような強烈な臭いはしないし、多くの豚が生き生きとした表情で動き回っている。「われわれは、アニマルウェルフェアにも取り組んでいます。豚たちのストレスや苦痛を最小限にし、出荷されるまでの間、ポークランドの農場で幸せに暮らせるようにしたい。結局そうすることが、おいしい豚に育っていく近道なんです」と豊下さん。アニマルウェルフェアとは、人間が動物に与える痛みやストレスといった苦痛を最小限に抑えることで動物の心理学的幸福を実現しよう、というヨーロッパ発祥の考え方のこと。家畜動物のアニマルウェルフェアでは、「飢えと渇きからの自由」「肉体的苦痛と不快からの自由」「痛み・苦痛と不快からの自由」「通常行動からの自由」「恐怖や悲しみからの自由」という5つの自由が挙げられている。

また、豚のエサに関しても、豊下さんは輸入穀物に偏っている現状をなんとかしたいと考えていた。世界的な人口増加が叫ばれる中、もし輸入が途絶えたら日本の食はたちまち危機に瀕してしまうからだ。そこで、地域の休耕田で飼料用米の栽培に取り組み、豚のエサに活用している。最初は全体の10%ほどの使用だったが、現在はその比率を30%にまで拡大した。「米の量を増やしてから、脂の臭みがなく、やわらかな身質になり好評です」と、豊下さんは桃豚の味に自信を持っている。秋田の美しい自然が育む、循環型農法による養豚。そこで生まれた豚の品質の良さは着実に広まっている。
命を頂くという事を私たち消費者が見つめなおした時に、その命が幸せに過ごしてくれていたのかどうかは、新鮮であるという事を超えるほど大切な品質なのかもしれない。

ACCESS

ポークランドグループ
秋田県鹿角郡小坂町小坂字台作1-2
TEL 0186-29-4000
URL http://www.momobuta.co.jp/index.html