甘い、きれい、大きいを備えた“貞ちゃんいちご”
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いちごの一大産地である栃木のなかでも、「甘くて美味しい」、「その大きさと整った形が素晴らしい」と評判を呼んでいるいちごがある。それが貞(てい)ちゃんいちごとよばれる、ここ渡辺さんの農園で作られるとちおとめ。真っ赤に色づいたおおぶりのいちごで、口に入れた途端に甘さが広がってくる。人気のほどもうなずける。ちなみに「貞ちゃんいちご」という名前はいちご作りの名人ともいわれる生産者の渡辺貞二さんの名前からとったものだ。
今回お話を伺ったのは、貞二さんの息子さんの拓磨さん。18歳のときから農園に入り、10年以上お父さんとともにいちご作りに携わり、現在は家業を受け継ぐ形でいちご作りを行なっている。
いちごに優しく。
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「俺、この眺めが好きなんです」といって、拓磨さんが案内してくれたビニールハウスのなかにはたわわに実ったとちおとめがずらり。中田ももぎってその甘さを堪能する。
「トマトなんかでよくやるように、水をわざと切らせて実に糖分を残すっていう育て方もあるんです。でも自分のやり方は光合成をたっぷりさせて糖分を送るというやり方」
そのように栽培方法を説明してくれたが、なぜ水を切らす方法を取らないのかという中田の問いには意外な答えが返ってきた。
「だって、かわいそうじゃないですか。人間と同じですよ。水はきっと毎日でもほしがってると思うんです。水も肥料も、ほしいものは全部あげる。そうすると応えくれる。面白いですよね」
農家、面白いですよ。
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ハウス見学を終え、集配所でお話を聞いている時に、中田が「貞ちゃんいちごっていう名前を変えようとは思わなかったんですか?」と聞いた。拓磨さんは「自分の代になったら変えてやろうって思ってたんですけど、おやじのときよりおいしくなくなったって言われたら嫌ですから。まだまだ変えられない…」と笑う。
よりおいしいいちごを目指して、いちごに”優しく”接する拓磨さん。「農家、面白いですよ」と本当に楽しそうにお話をしてくれたその姿を見ていると、いつの日か”貞ちゃんいちご”から”拓ちゃんいちご”に名前が変わるときが来るのではないかと感じずにはいられなかった。
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