竹で編まれたソファ。
まずは棚に飾ってある八木澤さんの作品を見せてもらう。花器やかごが中心で、細密画のように緻密に編みこまれた作品の、繊細な美に目を奪われる。かと思えば、ざっくりと編んで竹の素材を前面に出した作品も見受けられる。細かい編みのものよりも力強さが感じられて、また違った魅力を放っている。
ただし、数ある作品のなかでも中田が驚いたのが、竹のソファだ。長い竹を丁寧に曲げ、編み込んで作られたこのソファ。ソファであるからには、もちろん座ることができる。
ギッチリと編み込んであるならわかるが、向こうがはっきりと見えるぐらいにざっくりと編みこまれたソファに座るのは少し勇気がいる。中田も恐る恐る座るが、まったく違和感なし。本物のソファなのだ。
ソファを可能にする竹。
ざっくり編んであるので、なかに照明を入れれば間接照明ともなり、足元から不思議な光に照らされることになり、幻想的な世界が生まれる。「これは本当に面白い」と中田は少しの間、動こうとしなかった。座っても平気な強度を保つためには、精密な設計図が必要なのだろうと思うが、図案等は作らないずに、頭の中にだけ設計図があるという。
それは竹を知ることでできることだという。自分たちが使う竹は、自分たちで山に入って切ってくるそうだ。目安は3年物。若い竹は柔らかすぎ、古い竹は固すぎて使えない。だから竹を見る目も養わなくてはいけない。見せていただいた立派な竹は、大田原市の杉林の中に育った真竹だという。竹林で育った竹と違い、表面に傷がほとんど見当たらない、大変状態の美しい竹なのだ。
人の輪で、竹の魅力を広める。
工房では、数名の作家さんが作業を行っていた。巧みな手さばきで淡々と竹を編み続ける。
八木澤さんはこれまで多くの人に竹の魅力を伝えるべく教室を持ち竹工芸の技術を教えてきた。作家としてひとり一人が全ての工程を行うことが出来るように、また、細かいものが得意であれば、細かいものを作らせ、ざっくりしたものが得意ならばそういったものを作らせるというふうに個性を尊重しながら。今ではお弟子さんが集まって勉強会も開かれ、合同の展示会を行われるようになり、竹工芸に携わる人と共に竹の魅力が脈々と広がっている。
最後に、八木澤さんの師であり父である、故・八木澤啓造氏の製作を追ったドキュメンタリー映像を見せていただいた。故・八木澤啓造氏は戦後に竹工芸の技術を学び、大田原市の竹工芸の礎を築いた方だ。その熱意は国内に留まらず、タイやフィリピン、中国等、産業を持たない貧窮した地域に竹工芸の技術を伝える活動にもご尽力された。
中田はその映像の中の見事な手さばきを見て、何度も「すごい」「きれいだよね」と言葉を発していたが、八木澤さんもひとつうなずいて「本当にすごいですよ。」とつぶやいた。
「何度も何度も、数をこなしてきたっていうのが手つきでわかります」
作家として竹工芸の可能性を追求しながら、多くの人に竹の魅力を伝える。八木澤正さんもまた、父から受け継いだ熱意を持ち活動を続けているのだ。