ツタンカーメンの黄金マスクもじつは琺瑯!?
つるりとした滑らかな質感、ずっしりとした重量、どこか懐かしくて郷愁を誘う琺瑯(ほうろう)の容器。病院の洗面器や食品の保存容器としておなじみの琺瑯だが、いったいどうやって作られるのかご存知だろうか?
じつは琺瑯は、金属で下地を作り、上からガラス質の釉薬を高温で焼き付けてできるもの。その発祥を遡ると、なんとツタンカーメン王にまで行き着くという。ツタンカーメンの黄金のマスクは、金や銀といった金属の上にガラス質の釉薬を焼き付けてできたものらしい。それは琺瑯の製法とまったく同じ。
片や装飾品、片や実用品だが、装飾品としては七宝焼きの技法へと受け継がれ、実用品としては琺瑯の製法となっていった。琺瑯はとても伝統のある製法なのだ。
衰退期にも伝統を守り続けた「野田琺瑯」
そんな琺瑯業界でもっとも高い品質を誇るのが「野田琺瑯」。1934(昭和9)年から70年以上、ひとつひとつ手作業で琺瑯を作り続けている、日本の琺瑯業界のトップメーカーだ。
かつては、鍋や漬け物の保存容器、洗面器などなど、さまざまな道具に琺瑯が使われていた。
それには、琺瑯が頑丈で長持ちする素材だということ、傷が付きにくく雑菌が繁殖しにくいという性質があること、表面が滑らかだから匂いも移りにくいことといった、様々な利点があったから。
しかし、1971年をピークにプラスチックやステンレスへと置き換わり、次第に衰退していった。一時は国内に90社もあった琺瑯メーカーもどんどん減るなか、野田琺瑯は琺瑯の素晴らしさを一途に追い求め、トップメーカーの地位を守ってきたのだ。
現代の生活に合うシンプル&クリーンな商品。
野田琺瑯のすごいところは、素材としての琺瑯の利点を最大限に生かしながら、現代の生活にマッチする製品を生み出してきたこと。
冷凍庫にも入れられ、そのまま直火にもかけられるという、「下ごしらえ」「調理」「保存」が1つの容器でできる「ホワイトシリーズ」。狭いマンションでも冷蔵庫でぬか漬けが漬けられる「ぬか漬け美人」。真っ白で清潔感に満ち、デザイン面でも機能面でも優れているこれらの商品は、大ヒットキッチン用品となった。
琺瑯は、今でも手作業で作られている。鋼板を切断し、型を抜き、縁を曲げたり絞ったり……型を作るだけでも何十種類もの工程があり、その繊細な技術を習得するには時間がかかる。何十年にも渡って培われてきた職人さんたちの技術があってこそ、はじめて作られるものなのだ。
琺瑯の衰退期にも伝統を守り抜き、しかも新たな製品を生み出してきた野田琺瑯。そうした姿勢が、現在のメーカーとしての信頼を生み出しているのである。