発酵されると毒がなくなる「フグの子ぬか漬け」
「フグは食べたし、生命は惜しし」。フグは確かにおいしい。だが、その体内には猛毒が秘められており、免許を持った人間しかさばくことができない。白山市の食品加工会社「あら与」が創業したのは、約180年前の1830年。7代目の荒木敏明社長は、いまも伝統の製法で“禁断の味” 「ふぐの子ぬか漬け」を作り続けている。
「江戸時代からこのあたりでは江戸時代から糠漬けにしたものをひそかに食べていたんです。もともとはうちでも三枚におろして、身の部分をぬか漬けにしていたようですが、白子のほうがおいしいと人気になり、そっちがメインになっていきました。白子は、1年間塩漬け、2年間ぬか漬けにすることで解毒発酵されて食べられるようになります。現在、この製法が認められ、石川県だけ製造販売が許可されています」
日本海のすぐそばにある工場を訪ねると、強烈な魚のにおいが立ち込めていた。でもそのなかにほんのりと“うまみ”のようなものを感じる。まさに“くさい”と“おいしい”の境界線。ここから発酵することで魚は、おいしく変わっていくのだ。「発酵しておいしくなるのはわかるんですが、なぜ毒がなくなるんですか?」(中田)
「実は、それが解明されていないんです。でも調べてみると、最初の1年間で毒が1/10以下になり、その後の2年間でほとんど残らなくなるんです。乳酸菌が毒のテトロドトキシンを分解するという説もありますが、詳しくはわかっていません」(荒木社長)
フグのおいしさを知ってほしい
扱うのは、小ぶりのごまふぐ。石川では5月がごまふぐ漁のシーズンとなるが、この時期のものは良質の魚卵をもっていてぬか漬けに最適だそうだ。自然の素材と伝統製法でつくられたぬかに米麹やイワシからつくった“いしる”を加えることで、より旨味を増した漬け床を作る。倉庫に行くと、大きな石を重しにした昔ながらの木樽が並んでいる。倉庫は木造で、夏は暑く、冬は寒い。石川の自然の環境のなかでゆっくりと発酵が進んでいくのだ。
あら与では工場見学やふぐの子粕漬体験を実施しているほか、本店併設のカフェでお茶漬けやおにぎり、パフェを提供するなど、発酵食品を身近に感じられる取り組みにも力をいれている。
「ふぐの子ぬか漬けがいちばんおいしいのは、加賀棒茶で入れたお茶漬け。でもごはんだけでなく、オイル、バター、ガーリックなどとも相性がいいんです。最初はみなさん、『本当に毒ないの?』とおっかなびっくり食べますが、『こんなにおいしいんだ』と驚いてもらえます」
石川は魚介が豊富で寿司はどこで食べてもおいしい。だが、この手間ひまかけて作られた「ふぐの子ぬか漬」けも捨てがたい。日持ちもいいので、お土産にぜひおすすめしたい。