江戸時代から笠間で続く焼き物文化
茨城県笠間地方は、やきものに適した良質の原料が豊富であったことから、江戸時代中期から御用窯を構え、多くの職人が集まり日用品をつくる焼き物の町を作り上げるようになった。
時代が変わり、笠間市となった現在でもその伝統は受け継がれている。東日本初の陶芸美術館である茨城県陶芸美術館や作陶を学べる茨城県立笠間陶芸大学校があり、市内には多くの焼き物のギャラリーがあったり、北大路魯山人邸を鎌倉から移築するなど、笠間焼を盛り上げるために積極的な活動をしてきた。
笠間の陶炎祭も行われる
毎年ゴールデンウィークに開催される「笠間の陶炎祭(ひまつり)」では、200を超える陶芸家や窯元が作品を販売するほか、フードブースやコンサートも楽しめるとあって、期間中約50万人の来場がある。
笠間が他の産地と異なるのは、造形や絵付けに「これが笠間焼」といったわかりやすい特徴がないこと。陶芸家を志す若者が多く集まったことから自由な作風が生まれ、全国各地の土や釉薬を使って思い思いの作品を生み出す。その自由さこそが“笠間焼らしさ”として多くの愛好家の耳目を集めている。
女性にやさしい笠間焼を作る
陶芸家・鈴木麻起子さんもそんな笠間焼の魅力に惹かれて、この街にやってきたひとりだ。
美術教員をしていたという叔母が、退職後に陶芸教室をスタートしたことをきっかけに、2003年頃から陶芸の世界を志すようになったのだそう。基礎技術を学んだあとは独学で作陶をつづけ、2006年に自身のブランドをスタート。鈴木さんが器を作るうえで大切にしているのは “女性にやさしい器である”こと、という。
女性でも重ねてもち運べる重さであること、棚にしまったときにかさばらないようスタッキングできること、無造作に重ねただけでインテリアに溶け込むデザインであること。立ち姿が美しく花器としても利用できること、料理の見栄えを鮮やかにし、色合わせを楽しんでいただけること。
20世紀後期に英国を拠点として活躍した陶芸家・ルーシー・リーにインスパイアされたという美しいターコイズブルーの作品は、モダンで繊細な雰囲気があるだけでなく、日用の美としての機能性も高く、女性のファンがとても多い。
笠間焼で笑顔があふれる場所を
笠間市内に古い民家を借り、その敷地内にアトリエを構える。陶芸家の作業場というと、どこかピンと張りつめた緊張感があるものだが、ここにはゆったりとゆるやかな空気が流れる。鈴木さんは、作品にとりかかる際、気持ちを平にする時間を持つようにしているそう。「私がほほえみむような気持ちでつくったほうが、日常で気持ちよく使ってもらえるんじゃないかと思っているんです」。セレクトショップなどでも人気の高い鈴木さんの作品は、「La Maison de Vent(ラ メゾン デ ヴォン)」のブランド名がつけられている。意味は、“風の住む家”。『この器のまわりが笑顔であふれる場所になりますように』というブランドコンセプトで、笠間に吹く爽やかな風と彼女の微笑みがやさしく美しい器をつくりあげているのだ。