半纏の大紋、着物の江戸小紋、藍染浴衣の「長板中形」
浴衣を染める「長板中形」という技法を受け継ぐ松原伸生さんの工房を訪れた。
「僕の染めは、もっぱら型紙を使った染めです。長板中形(ながいたちゅうがた)というんですが、」と説明してくださる松原さん。
「長板中形って、どういうことですか?」と質問する中田。
「長板は、まさに長い板のことです。中形というのは、江戸小紋の“小紋”に対する“中”のことなんです」
「え? じゃあ江戸中紋というのもあるんですか?」
「それはないんです。柄の大きさのことを表すんですが」
「大紋というのはありますよね?」
「大紋というのは、はっぴだとか祭り袢纏のような大形の模様のことで、“大柄”という言い方もします。それに対して小紋というのは、遠目に見ると柄がわからないくらい小さくて、色も豊富なんですね。で、僕の家が祖父の代からやっている長板中形という技法は、小紋より少し柄が大きくて、主に浴衣に使われるものです」
世の中に出回っている浴衣は数あれど、長板中形の技法を扱う浴衣は、浴衣のルーツともいえる木綿や麻の藍染浴衣のみ。
だから、伝統技法の藍染浴衣のことを「長板中形」とも呼ぶのだそうだ。
その作業の仕方については「見てもらったほうが早い」ということで、早速拝見させてもらった。
糊を置き、染め上げる工程を体験する
長い板の上に張られた布に、渋紙で作られた型紙を乗せ、赤い染料を混ぜた糊を置いていく。型紙をのせて糊を置き、模様の続きになるようにまた型紙を模様に合わせ、糊を置き、その作業をくり返す。糊に混ぜた赤い染料が柄の目印になるが、水に溶けるので、最終的に色は抜けるという。
糊をすべて置き終わったら天日にあてて乾かしたあと、今度は裏にも糊を置いていく。これは布を藍で染める際に浸して染めるため、裏まで染まってしまうからだ。
浴衣は一重で着るため、裏生地を付けない。そのため、裏にも模様を付けるのが長板中形の特徴なのだそう。
ひとしきり松原さんの作業を見せてもらったあと、中田も風呂敷サイズの布に糊を置かせてもらった。
「早くヘラを動かしすぎても、糊が薄くなってダメなんですね」と、中田。生地の余白には、糊を使って「Hide」のサインを入れさせてもらう。
その生地を藍に浸して色を染め、水で糊を洗い流して、酢酸で中和させて乾かすと、見た目にも涼やかな美しい布地ができた。模様も名前もキレイに出た布をかざして、中田もご満悦。
「作業をするときに、頭に巻かせてもらおう」とのこと。今度は浴衣を作りたいと意欲も満々だ。
自然素材を生かした浴衣作り
長板中形は、糊の性質を非常に生かした染め方だと、松原さんは言う。
だから、糊の質が重要なのだそうだ。
松原さんは、もち糊とぬかをその日の気温や湿度に合わせて配合して糊を作る。
塗りやすく乾きやすく流しやすく、しかも完全な自然素材。
糊のことを語る松原さんの顔は楽しげで、長板中形という染めに対する情熱と愛情に溢れていた。