見渡す限りの桜の里「いわき万本桜プロジェクト」志賀忠重さん/福島県いわき市

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見渡す限りの桜の里へ 250年のプロジェクト

故郷の里山を9万9千本の桜でいっぱいにして、子どもたちに残そう——。いわき市で今、とてつもなく壮大な計画が進められている。その名も「いわき万本桜(まんぼんざくら)プロジェクト」。世界で活躍するアーティストも名を連ねるプロジェクトの舞台を訪ねた。

いわきの人々の切なる思いが集まり、「いわき万本桜プロジェクト」がスタートしたのは、東日本大震災から2カ月後のことだった。活動の中心を担うのは、志賀忠重(しが・ただしげ)さん。今年、開高健ノンフィクション賞を受賞した川内有緒(かわうち・ありお)さんの「空をゆく巨人」のなかに、「いわきのすごいおっちゃん」として登場する人物だ。

目指す場所は、田んぼを見下ろす高台にあった。そこから先にはまるで龍のように、全長約160メートルの木の回廊が上へ上へと伸びている。入口の看板には「いわき回廊美術館」の文字。壁の展示物に見入っていた中田英寿さんが、1枚の写真の前で足を止めた。
「これも蔡(さい)さんの作品ですか?」志賀さんが、ええ、とうなづく。
「『いわきからの贈り物』という、世界各地で展示された作品です。展覧会の度に、私らいわきチームも現地に行って組み立てを手伝うんです。蔡さんは、一緒に遊びたいだけかもしれないけれどね」
いたずらっぽく笑うと、志賀さんは盟友・蔡國強(さい・こっきょう)さんと、ここに美術館をつくった経緯を話してくれた。

中国・福建(ふっけん)省出身の現代美術家、蔡國強。いわきを第二のふるさとと語り、現在はニューヨークを拠点に世界中で創作活動を続けている。今から30年前。筑波大学の留学生で、駆け出しのアーティストだった蔡さんは、いわきの画廊で個展を開くチャンスを得た。その時、志賀さんが絵を購入したのをきっかけに、ふたりは友人になる。そして、その友情は、蔡さんが世界に羽ばたいた後も続いた。
7年前の震災の時、蔡さんはすぐさま、いわきに駆けつけた。「万本桜プロジェクト」の話を聞き、美術館をつくろうと提案してくれた。

未来の桜景色を描いていく

「桜を植樹するには、元々ある木を伐採する必要があるんです。震災前は、間伐材が一反歩あたり5〜6万円で売れたんですが、震災後は、値崩れしてしまって。赤字だよと言ったら、それならその木材で建てましょうと。手入れも楽だからということで、回廊形式になりました」
蔡さんのスケッチをもとに、総勢400人の有志が、半年かけて建設。現在、敷地内には、4つの蔡作品が展示され、周囲には、志賀さんらボランティアが自作した屋外ステージやツリーハウス、ブランコなどが点在。現在も、カフェスペースや、図書室などを建て増し中だという。

桜は年間400〜500本を植樹しており、現在までに4000本を数える。とはいえ、まだ目標の25分の1。このペースでは、約200〜250年はかかるでしょうねと志賀さんは笑う。
「将来的にはね。目の前の田んぼを取り囲むように、桜でいっぱいにしたいと思っているんです」
志賀さんの指差す先を見て、「最高の景色ですね」と中田さんが言う。
「ずっと進化し続ける美術館というのも面白いですし、多くの人の思いが詰まった場所だけに、もっとたくさんの人に知ってもらえる仕組みを考えてみるのはどうでしょう?」
「田んぼが美しい場所だから、秋の収穫祭を開催したらどうでしょうか」
囲炉裏(いろり)を囲んで、ふたりの作戦会議は日が暮れるまで続いた。

参考リンク

●いわき回廊美術館
福島県いわき市平中神谷地曾作7

●いわき万本桜プロジェクト
https://www.mansaku99.com/home

●いわき万本桜info(X:旧twitter)
https://twitter.com/99000_sakura

ACCESS

いわき回廊美術館
福島県いわき市平中神谷地曾作7
URL https://www.mansaku99.com/home
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