福島の人と自然が育んだ「極上の桃」桃農家·南祐宏さん/福島県桑折町

福島の人と自然が育んだ「極上の桃」桃農家·南祐宏さん/福島県桑折町

福島の人と自然が育んだ、極上の桃を求めて

全国有数のフルーツ王国として知られる福島県。なかでも、福島を代表する果物といえば「桃」だろう。産地では福島市、伊達市などが有名だが、今回、中田英寿さんが向かったのは、伊達郡桑折町(こおりまち)。町産の桃は、25年連続で皇室献上品に選ばれている。

阿武隈(あぶくま)川沿いに延々と広がる桃畑。通称「ピーチロード」と呼ばれる一角にある南祐宏(みなみ・まさひろ)さんの農園では、「たまき」「日川白鳳(ひかわはくほう)」など6~7月上旬の早い時期に実る桃が収穫の時を迎えていた。
これまで何度も福島を訪れている中田英寿さんだが、福島が桃の収穫・出荷量全国2位(農林水産省 大臣官房統計部 平成30年1月23日公表から)ということに驚く。
「なぜ、桃の栽培がこれほど盛んになったんですか?」
戦後、養蚕(ようさん)業の衰退に伴い、多くの農家が果樹栽培へ転業した。とりわけ阿武隈川流域は、豊かな土壌と盆地特有の気候が桃の栽培に適していたのだと、南さんが歴史的背景を教えてくれる。
「私のところも祖父の代から桃の栽培を始め、60年になります」
南さんの農園では16種類、約500本の桃の木を栽培している。6月末~9月までさまざまな品種が採れるが、主力品種は、福島を代表する銘柄「あかつき」だ。

ブランド桃「あかつき」名前の由来は神社

福島市・信夫山羽黒神社(しのぶやまはぐろじんじゃ)の祭り「信夫三山暁(しのぶさんざんあかつき)まいり」の名に由来する「あかつき」は、昭和54年に品種登録された、例年8月上旬~中旬(気候によって変動。今年は7月末~8月上旬が見込まれている)が収穫時期の桃だ。小玉品種だったことから、全国的にはあまり栽培されなかったのだが、福島の生産者たちは、その味わいの良さに着目。栽培方法を工夫して実を大きくし、果肉が緻密(ちみつ)で甘みの強い、極上のブランド桃に育て上げた。
「生産者からすると、栽培しやすい桃でもある。実がずっしり豊満で、見栄えも良いので、贈答用としても人気の品種です」(南さん)
桑折町産の桃は25年連続で皇室献上品に選ばれている。献上桃となるのは糖度、硬さ、大きさ、色づきの基準から選別された特秀ランクの「あかつき」のみ。各農園からえりすぐりの桃が集められ、さらにそこから最高峰の桃を選び出すのだという。
話を聞き、中田さんが身を乗り出す。
「南さんの農園では、献上桃と同グレードの桃はどのぐらい収穫できるんですか?」
「約300個、収穫量の2〜3%でしょうか」
と南さん。いまは桃づくりが楽しい——。そう言って、震災後の暮らしぶりをとつとつと話してくれた。

震災からの復興

原発事故の風評で、県内の桃は販売量、価格ともに大きく落ち込んだこと。丹精込めた桃を安心して食べてもらいたい一心で、桃の木1本、1本の除染を徹底したこと。除染で弱ってしまった木を植え替えながら、黙々と桃を育て続けたこと。震災から7年を過ぎたいま、販売価格も以前の水準まで回復。アジアなど海外への輸出も伸び、励みになっていると南さんは言う。「食の安全・安心に対する我々、生産者の取り組みが評価頂けている結果でもある。おいしいというお声を頂くたびに、報われたような気持ちになるんです」
照れたように笑う南さんに、「あかつき」を食べられるのを楽しみにしていますと力強く告げると、中田さんは笑顔で農園を後にした。

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桃農家 南祐宏さん
福島県伊達郡桑折町