木象嵌で表現する命
髪をひとつにまとめ、頭をタオルで包んだ、まさにアーティストといういでたちで現れた戸島甲喜さん。
数々の賞を受賞している木象嵌作家だ。
もともと画家になりたかったという戸島さんが作る木象嵌の作品は、まさに絵そのもの。
さまざまな色を使い分け、濃淡により、立体感さえ浮かび上がらせる。
戸島さんが作品のテーマとしているのは、「命」。
「命が普遍的に活動している、誕生しているということをテーマにしています。作品を見て胸のあたりが動き出すといってくれる人がいる。そうすると、作った甲斐があったって嬉しくなるんです」
作品はどこか静謐な雰囲気をただよわせながらも、躍動感がある。
それが胸のあたりを動かすのかもしれない。
「焦がし」という伝統の技
戸島さんの作品には濃い色から薄い色までさまざまな色が使われるが、なかでも特徴的なのが、日本ではあまり使われない、焦がしという技術だ。
木を熱した砂でじっくりと焦がすことによって、濃淡とともに立体感が出てくる。
焦がしを施す際は、パーツをピンセットでつまみながら、ひとつずつ砂のなかを何度もくぐらせる。
「取り出す時間は決まってるんですか?」
「煙が出てきたらやめる。これ以上焦がしちゃいけないよって言ってくれてるみたいなんですよ」
まるで木と対話するかのように、ひとつひとつ丁寧に焦がしを入れていく。
触ったり、目にしたい、作品。
「カッコいいよね」と、何度も絵に見入る中田。
「欲しいけど、置いておくところもないし」
「じゃあ、倉庫でも作れば?」
「でも見たいんですよ、やっぱり。触ったり、目にしたりしてこそじゃないですか」
そんな会話のなか、戸島さんはこういった。
「もともとこの技術は伝統工芸品のなかに息づいていたもの。私は絵をやりたいと思ってこういった作品をやりだしたんだけど、技術は伝統的なものです。そういう技術を使ってこういう一品を作るというのを、次代に受け継いでいってもらいたい」
触ったり目にしたりしてこそ、次代に受け継がれていくもの。
木象嵌の表現の奥深さに出会うことができた。