鈴木大拙の考えを世の中に
金沢が生んだ仏教哲学者・鈴木大拙の考えや足跡を広く国内外の人々に伝える鈴木大拙館。大拙は禅についての著作を英語で著し、日本の禅文化を海外に広めた人物である。ここは大拙についての理解を深めるとともに、来館者自らが自由な心で、思索する場として活用することを目的に開設された。中田はこの館で禅の思想に触れる。「作品と向かい合っていただくため、作品に一切説明書きはつけていない。説明書きがあるとそれに囚われてしまう。自分がどう捉えるかを大切にしてほしい」と副館長の宮下清昭さんは話す。作品の解説については資料があり、来館者はそれに感じたことなど書き込んでいく。
空間づくりにも禅の意識
玄関棟から展示棟までは、足元にだけ灯りがついた長い廊下をわたっていく。気持ちを鎮め、異空間に誘われるような感覚だ。建物は国内外で活躍する著名な建築家谷口吉生氏によるもので、見所の一つでもある。シンプルで禅の思想を際立たせるような洗練された佇まいだ。玄関棟、展示棟、思索空間棟とこれらを結ぶ回廊からなり、回廊の両側には二つの庭「水鏡の庭」と「玄関の庭」が広がる。「水鏡の庭」は浅く水をたたえ、その中に浮かぶように「思索空間棟」が立っている。
鈴木大拙館の水鏡の庭に立って
展示を見終えて、水鏡の庭を眺めながら、回廊を渡っていく。遠くに生い茂る緑が、庭と一体化し、広がりを感じられるようになっている。「まるで借景のよう。本当に美しい」と中田。中田はこの光景が気に入っていて、ふらりと一人訪れることもあるという。またこの夜は雨がしとしとと降り、水鏡の庭に波紋をつくっていた。雨音が響いて、情緒がある景観を堪能した。