江戸文化の香りを今に残す清水園
新潟県新発田市にある日本庭園「清水園」は、越後を代表する大名庭園。江戸時代に新発田藩によって造られた回遊式庭園で、中央に草書体の「水」の文字を描く大池泉を配し、池の周囲には5つの茶室が点在する。また、庭園を囲むようにそびえる薩摩杉、庭内の青森ツガは、この地では珍しい樹木。当時の流通の様子を伝えるものであり、希少な樹によって格式をあげようとしたことが伺える。
近江八景(堅田の落雁・三井の晩鐘・瀬田の夕照・石山の秋月・粟津の晴嵐・矢橋の帰帆・唐崎の夜雨・比良の暮雪)を取り入れたというその美しい景観は2003年に国から名勝の指定を受けた。
清水園の簡素な意匠の「書院」
中門の右手にある書院は、「清水谷御殿」と呼ばれた寄棟造の平屋、80坪余りの建物。お殿様が庭を眺める部屋だった。能舞台の跡が見られ、ここではかつて能や様々な催し物が行われ、この別宅で心を休めていたことが伺える。
二間続きの京間座敷が池に面して広く開けられ、かぎの手に続く二間床のある15畳の部屋の床板には春慶塗の跡が見られる。意匠はきわめて簡素、装飾的なものが全く見られない華美を配した造りは、当時の幕府への政治的配慮があったと言われている。
清水園の景趣に溶け込む5つの茶室
城下町新発田は茶の湯が盛んな地。新発田藩の歴代藩主は、茶道に力を入れていたと言われ、清水園の池のまわりには、「桐庵」「夕佳亭」「翠濤庵」「同仁斎」「松月亭」それぞれ趣の異なる茶室が配されている。これは荒廃した庭園の修復工事と併せて、茶人田中泰阿弥が清水谷御殿絵巻物や古記録にもとづき、昭和20年代に築造した。茶室は通常内部公開されないが、時折茶会などが開催され公開されることもあるという。
池泉と一体となり景観に溶け込むように佇む茶室は、越後から東北にかけて比を見ない庭園になるために、必要不可欠な風情を持ち、江戸の文化を今に伝える重要な役割を果たしている。