「陸奥八仙」をしのばせる白い蔵
多くの地酒専門店で取り扱いがあり、地酒ファンのなかでその名前を知らない人はいないといわれるほどの酒が「陸奥八仙」。その酒を作り出すのが八戸酒造だ。もともとは1775年に駒井庄三郎という人が始めた酒蔵で、明治時代に八戸に蔵を移した。大正時代に建てられ、現在も現役として活躍している蔵は2011年に国の登録有形文化財に指定、また青森県では初となる景観重要建造物にも指定された。蔵の前を走る通りはかつて浜へ向かう主要な道だったそうで、当時は商家などが建ち並んでいた。八戸酒造の白い蔵を見ているとその当時の賑わいが目に浮かぶようだった。
地酒として高品質のものを
華やかな香りとさわやかな甘みで人気の陸奥八仙が現在の形で造られるようになったのは1998年からのこと。1942年に発せられた企業整備令で八戸市および周辺に所在する複数の酒蔵は、結合して「組合」のような協同組織で酒造りを行なわざるを得ないことになった。戦後もその形で酒造りが行われたが、八戸酒造の前進にあたる駒井酒造が、品質を重視した酒を造らなければいけないと独立開業した。そうして駒井酒造店だけの新しい酒造り、新しい日本酒が誕生し、「陸奥八仙」は生まれた。
米の旨さを堪能できる甘さ
9代目蔵元の駒井秀介さんに蔵を案内してもらって、最後は恒例の試飲。八戸酒造では陸奥八仙とともに、地元に主に出しているという男山という銘酒もある。こちらも合わせていただいた。「男山は辛口。八仙は旨口」と駒井さんはそのふたつの特徴を説明する。陸奥八仙を飲んで「たしかに甘みが特徴的ですね。でも嫌な甘さじゃない。邪魔しない甘さ」と中田。そして今回は特別にまだ商品化されておらず(※取材当時)試験醸造だという、八仙の発泡酒も飲ませてもらうことができた。香りを楽しんで、口に入れる。中田の口からすぐにでてきたのは「おいしい」というシンプルな言葉。「ぜひ商品化してください」と笑っていた。