秋田天然杉を使った秋田杉樽桶
秋田は吉野と並ぶ杉の産地。そのなかでも能代市は、秋田杉が豊富にはえる土地だった。その秋田杉を使った工芸品が秋田杉樽桶。お話を伺った鎌田勇平さんも「天然杉があるから生まれた」と最初にお話をしてくれた。
鎌田さんは国指定の現代の名工(卓越技能賞受賞)に認定された人物。18歳でこの道に入り、現在でも秋田杉樽桶を現役で作り続ける職人だ。秋田県知事賞をはじめ、数々の賞を受賞。1985年には伝統工芸士の認定も受けている、まさに名工だ。
秋田杉樽桶は生活に密着した道具
秋田杉樽桶は、平安時代に建てられた秋田城跡からも樽の木片が見つかったという報告があるほど生活に密着した道具だった。江戸時代に入ると秋田藩主の奨励により、製造が盛んになりどんどん普及していった。杉の温かみのある柔らかさ伝わってくるなかに、しゃんと筋の通った美しさも兼ね備えた工芸品だ。
樽桶という言葉からは醤油樽やたらいといった大きなものを想像してしまうかもしれないが、現在では生活にあった酒器やマグカップといった小さなものも多く作られている。
「土間にあったものをテーブルの上に乗せるようになった」と鎌田さんは話す。生活が変われば道具も変わる。その転換期にいちはやく酒器、インテリア、花器といったものを鎌田さんは制作していった。
秋田杉樽桶という道具だからこそ理由がいる
これは”道具”としての認識があるから。お話の最初に、杉がいかに日本の食に適しているかという話をしてくれた。例えばおひつ。現在の電子ジャーではなく、自然と冷めていく杉だからこそ、ご飯に甘みが出てくるのだという。酒や醤油、漬物といった発酵文化を支えているのも呼吸ができる杉樽。そういったことを力説してくれた。
「我々は作家作品を作ってるわけではない。だからこそ、おいしさが増す、使いやすさが増すといったちゃんとした理由があって、ものを作っていかなくてはいけないんです」
そう鎌田さんは話す。「そのためには努力。努力なしではそういったものは作れない」とも。伝統という言葉にだけとらわれない視野の広さも努力のひとつなのだと思う。だからこそ、伝統は常に現代にいきづいているのだ。