秋田で盛んなりんご栽培
秋田県鹿角市といえば、りんごの産地で有名な場所。昼夜の気温差が大きいために、実が引き締まり、色がよく、そして何より味のいいりんごが作れる場所なのだ。そのため、古くからりんご栽培が行われていた。始まりは明治の初期。すぐにそのおいしさは広まり、「鹿角りんご」として、近県だけなく東京などにも出荷されて人気を呼んだ。
もちろん現在でもりんごは秋田を代表する果物のひとつ。りんご王国ともいえる青森県が全国シェアの約50%を占めていてダントツなのだが、青森を除いた県のなかでは、長野、岩手、山形、福島といった県と肩を並べている。
今回お話を伺った佐藤一さんはりんごを栽培する農家のひとりだ。ただ、そのほかに「桃」も栽培しているのだ。
収穫が日本で最も遅い桃
「本場の生産者には無理だと言われたんですよ」と桃栽培を始めた当時を振り返る佐藤さん。たしかに桃は気温が低いところでは育てることができないと言われている作物だ。約20年前、それから桃の産地として有名な福島や山梨などに研修に行ったが、「やめたほうがいい」とまで言われたそうだ。それでも根気強く栽培を続けた結果、全国でも評価されるほどの桃を作れるようになったのだ。
佐藤さんが栽培している桃は「かづの北限の桃」として出荷されている。北限というのは、どんな品種を育てても収穫時期が日本でもっとも遅くなることからつけられたものだ。
出荷は主に9月初旬から中頃と、たしかに桃の時期としては、主要産地から2週間ほど遅れる時期だ。近年ではさらに収穫時期が遅く、10月またがって出荷する「さくら」という品種も作られるようになったという。
甘さと美しさを備えた桃
かづの北限の桃が人気を呼んでいる理由はなにも出荷時期にだけあるわけではない。正真正銘、その「味」が評価されているのだ。大きさや糖度など一定の基準に達しないと出荷ができない。
8月に収穫できる「あかつき」などは、緻密でしっかりとした甘さが魅力の品種だ。それに比べてまさに9月に収穫する「川中島白桃」は、甘さと酸味のバランスが良く、濃厚な味が人気を呼んでいる。
「基本的に温かい地域の桃は甘い。でも北の地域は、熟し切らないから、身が締まって酸が残るんです。甘みと酸の両方を楽しむことができる」と佐藤さんは話してくれた。
JAかづの管内だけでも約20種類の桃が栽培されているという。それだけ品種があるとどれがどの品種かわからなくなってしまいそうなものだが、佐藤さんは「形や色、特に肉質の違いもある」という。
もともとこの地域で桃栽培が導入されたきっかけのひとつとして、病気や台風被害によるりんご栽培への改善策、次善策という面があったそうだ。しかし現在ではそのおいしさが評価され、全国的な認知度も人気も高まっている。