色とりどりの鞘
小山光秀さんは、刀の鞘(さや)を専門に塗る漆芸家だ。「拵え(こしらえ)もの」という、いわゆる飾り用の鞘の漆を塗る。実際に、小山さんが作った鞘のサンプルを見せていただきながら話を伺う。
中田が「鞘って真っ黒っていうイメージがあるんですけど、いろいろな色があるんですね」と驚くほど、バリエーション豊かで華やかなものが並んだ。
「江戸期になると、戦いがなくなったっていうのもあると思うんだけど、いろいろな色の鞘塗りがされるようになった。でも中田さんも言うように、刀だとやっぱり黒と朱が圧倒的に人気ですね」
鞘は必ず、朴の木を使う
小山さんの作る、漆塗りの鞘。実は、常に刀を納めていたのではないのだと教えていただく。
「え!そうなんですか?」と驚きを隠せない中田。
「そうです。漆塗りの鞘は刀身を錆びさせるので良くないんですよ。この鞘に入れるのは表に出るときだけ。普段、保管するのは塗りのない、白鞘(しらさや)に入れておくものなんです」
そして、鞘に使われる素材は朴の木(ホオノキ)。もし、表面に他の木を使う場合でも必ず刀身が触れる内側には朴の木を使った入子鞘(いりこざや)を組み込んで作るのだという。
「それに、鞘の角は痛みやすいので水牛の角の加工か、彫金の細工を施します。これは伝統の、しきたりのようなものですね。」細部まで先人のこだわりが受け継がれているのだ。
今を大事にして作る
小山さんは自身の表現活動を続けるために、伝統工芸展や展示会に出品する漆芸作品も作っている。
「私たちは今を大事にして作ってるつもりなんだけどね、伝統工芸っていうと、古いイメージがあるじゃないですか。」と話す小山さん。
「たしかに先入観はあるかもしれませんね。こうやってお話したり、作業をしているのをみると、みなさん新しいことをやってらっしゃる。そのイメージを少しずつ変えたいなと思うんですよね」と答える中田。
「私たちの作品は世に出るまでに時間がかかってしまいますね、どうしても。だから、おじさんがやってるみたいなイメージがあったりするのかな。技術を習得するまでにやっぱり時間がかかるんですよね。表現をするためには、時間がかかる。10年、20年。」
工芸作家仲間と常に情報交換をするという小山さん。鞘塗り、漆芸作品、伝統の形を残しながら、そのひとつひとつは新しい輝きを放っている。