人間国宝に学んだ木地の大事さ
漆が表現する艶をどう表現したら一番いいのだろうか。しっとり、艶やか、深さのある…。目の前にある漆の器にもそんなえも言われぬ、深い艶がある。 その漆器を作ったのは蜂谷友季子さん。地元山形市の出身で、東北芸術工科大学の日本画コースを卒業。その後、石川県挽物轆轤(ろくろ)技術研修所に入り、器作りを学んだ。 4年間の研修期間は贅沢すぎるぐらい贅沢な時間だったという。
「こんなに環境が良くていいのかっていうくらい素晴らしい環境でした。先生方にも恵まれて。人間国宝にも認定されている川北良造先生にも指導してもらって、手とり足取り教えてくれたんです」 挽き物を基本とする木工の技術だけなく、漆も拭き漆から螺鈿、蒔絵までトータルですべて教えてもらったという。
「そういうものをすべて教えてもらうと、器にとって木地がいかに大事かわかるんです。それをサボるといくら漆を塗っても結果として現れてしまう。木地作りから漆塗りまですべてやってみて、なるほど、と納得しました」
日常で使うための木地作り
研修所時代に第49回日本伝統工芸展に出品した作品が入選を果たす。石川県での研修後、山形に帰って本格的に個人製作を始める。研修時代の考えもあり、蜂谷さんは木地づくりから塗りまで一貫して製作を行っている。これは珍しいことなのだが、そこには「普段使いたいと思うものを作りたい」という気持ちがあるからだという。
「漆は洗うことによっても強度が増すんです。だから使いやすさを無意識のうちに考えているんだと思います。普段の生活のなかでぱっと手にとってもらえるものだといいなと思っています」 そのためには木地はきれいで使いやすい形が大事。だからまずは木地師としての仕事が大事ということになるというわけだ。
漆が見せる深い艶
そして次は塗師としての仕事。漆とひとくちに言っても、さまざまな技法がある。そのなかでも蜂谷さんは「拭き漆」で作品を仕上げることが多い。どうして拭き漆での製作をするのか中田が質問すると、最初は蒔絵などをやりたかったがいまは拭き漆の奥ぶかさに気づいたのだと答えてくれた。
「まずは木地の材の良さ、木地の仕上がりの綺麗さがなくてはこの姿は生まれません。それから漆を塗り、拭き取る。木地に残る漆はほんのわずかで漆のほとんどを拭き捨ててしまう。それを何回も繰り返すことでやっとほかでは出せない艶が生まれるから拭き漆はとても贅沢だと思います」生地を挽くところから一貫して作業しているからこそ気づく贅沢な美しさなのかもしれない。
本業の器意外にも目がいく
きれいなものを発見するのが好きという蜂谷さん。本業の器だけでなく、さまざまな“きれいなもの”に目がいくという。山形の旅で訪問したオリエンタルカーペットの緞通もいつかは手に入れたいと言っていた。それから中田と奈良美智さんがコラボしたタジン鍋のことも知っていた。「あのお鍋、おもしろいですよね」と本当に楽しそうに話してくれたのが印象的だった。