心に響く鐘の音「山形鋳物」伝統工芸士·菅江浩峰さん/山形県天童市

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お寺の梵鐘を作る伝統工芸

梵鐘といわれてもパッとイメージはわかないかもしれない。でも「お寺の鐘」といえば、すぐにでもピンと絵が浮かんでくる。戦中に金属が必要となり、梵鐘も回収の対象となった。そのため、現在でも多くのお寺には鐘がないままだという。今回はこの梵鐘を作っている「渡邊梵鐘」を訪ねた。お話を伺ったのは山形鋳物・伝統工芸士の菅江浩峰(すがえこうほう)さん。この日は目の前で小型の梵鐘を実際に作ってくれながらお話をしてくれた。
菅江さんは鋳物の街、山形市銅町の生まれ。父である鋳物師、渡邉市郎さんのもとで修行をした。1980年に日本伝統工芸展に入選。その後もさまざまな展覧会に出品、賞も数々受賞している。伝統工芸士の認定も受け、現在も梵鐘を作り続けている。

育っていく鐘の音

梵鐘というと、例えばそのお寺の宗派などによって、形や大きさに決まりがあるのかと思えば、そうではないという。
「もちろん、過去のものを見てみると、基準になる大きさ、比率というのはあります。例えば鐘の直径に対して高さは1.4倍のものが多いとか。ただ、最終的には作者の考え方で形は決めていいんです」。

作者の考え方が反映されると菅江さんは話す。菅江さんは音響学も学び、より「いい音」を追求している。鐘の音は基本的に直角に響く。だから平地で鳴らす鐘を作るときは横を意識する。でも山の上にあるお寺などの鐘を作るときは、山の下にも音が聴こえるように考えるのだという。
また、すぐそばで鐘をついても“耳が痛い”と感じないような鐘を作らなくてはいけないとその信念を語ってくれた。 梵鐘はできあがったすぐよりも、1、2年経ってからのほうがいい音がでるようになることがある。音が「慣れる」のだという。
「生きてるみたいですね。いまでもわからない、そういう不思議なことがあるんです」。

自分の手から離れるときは寂しい

梵鐘は生きているみたいと話すが、銅と錫の合金を溶かして形を作る鐘作りも理屈だけでは説明ができない難しさがあるという。
「うまくいけばいいけど、失敗もありますよ」。
制作工程は、まずオーダーがきた段階で設計図を書き、それを元に木型をおこすのが最初の作業。そこから砂で中子と外型の鋳型を作り、材料の青銅と錫を溶かして鋳型に流し込む。流し込んだ鋳型は、冷めてから鋳型を壊して鐘を取り出す。山形は鋳物の街として有名で、一時期は茶の湯釜の全国シェアでも多くを占めており、人間国宝も輩出した土地だ。その伝統がここに息づいている。
材料は青銅が多い。緑青といわれる独特のサビの色がでて、私たちがイメージする“お寺の鐘”の色が出てくるのだ。ただし、青銅は重い。実際に中田も材料となる青銅を持たせてもらったが、「見た目よりも重い…!」と驚いたほど。150キロの鐘を作るのに200キロほどの青銅を使うのだという。もっと大きいものを作ることもあり、もちろんひとりでは作業ができないほどの重労働になる。使う青銅は1トンを超えることもあるのだという。鋳型を壊して鐘を取り出してからも磨きなど、さまざまな作業が待っている。こうしてようやくお寺や神社に納めるまでにいたるのだ。
「手をかけて作ったものだから手放すときにさびしくなるときもありますよ」と菅江さんは言う。子どもが結婚していくような感覚かもしれない。その子どもたちが、少しすると慣れていい音を出すように“育っていく”のだ。そんなお話を聞いているうちに、菅江さんの手元には最初から作っていた小さな鐘が誕生していた。

ACCESS

有限会社渡邊梵鐘
天童市大字荒谷2788
URL http://bonsyo.com/
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