絵画的な柿右衛門様式
柿右衛門様式とは、伊万里焼の一種で、濁し手とよばれる白磁に赤絵の具を基調とし、余白を生かした優美な色絵磁器のことをいう。1659年頃に本格化するヨーロッパ等への輸出によって生産が拡大され、それに伴いより白く傷や歪みのない素地を作る技術も急速に進歩していく中、柔らかくて温かみのある乳白色の素地の上に、余白を十分に残した明るく繊細で絵画的な構図を特徴とする色絵磁器が作られるようになったことを起源とする。
ヨーロッパ各地で賞賛をあつめた柿右衛門
柿右衛門様式の作品がオランダ・東インド会社の手によって広くヨーロッパ等に紹介されると、海外で賞賛され、18世紀になるとヨーロッパ各地の窯で『柿右衛門写し』なる倣製品が数多く生産される程になった。国内においてもその赤絵の美しさが高く評価され、1670年代には、いわゆる『柿右衛門様式』が確立。
柿右衛門の特徴である『濁手(にごして)』は、米の研ぎ汁のように温かみのある白色の地肌をもつ素地のことで、特別な原料とその配合、製法で作られている。一般的な白磁がやや青味を帯びているのに対し、濁手は柔らかい乳白色を呈しており、1650年代頃に、柿右衛門の色絵が一番映える地肌を持つ素地として創りだされたが、その後も改良され上質なものが作られるようになった。しかし江戸中期になると、原料の入手や製作上の困難さ等により一度途絶えてしまう。
野の草花と器を融合させる十四代柿右衛門
柿右衛門様式を復活させたのが、第12代・第13代柿右衛門。代々伝わる古文書を基に、試行錯誤の末になんとか復元、1971年にはその製陶技術が国の重要無形文化財の総合指定を受けるに至り、再び高く評価されるようになった。取材当時の十四代柿右衛門はその技術を受け継ぎ、阿蘇、九重等の山々に自生する野の草花などのモチーフを積極的に取り入れた新しいデザインを濁手の地肌により良く融合させることで独自の境地を切り開き、2001年、国から重要無形文化財保持者に認定されている。
(取材・原稿/2009年)