海で育まれる宝石「真珠」
別名「月のしずく」、あるいは「人魚の涙」。こんなロマンティックな名前を持つ宝石が、真珠だ。乳白色に光るまん丸の粒を見ていると、たしかにそんなふうに呼びたくなるほど美しい。
宇和島が臨む宇和海の海岸沿いには、真珠の養殖イカダがズラリと浮かび、4月から7月にかけて、いたるところで真珠の核入れ作業を見ることができる。リアス式海岸による紺碧の入江。その深い入江の海面は穏やかで、水質・水温・潮の流れとも真珠の養殖にもっとも適した環境だ。
宇和島では、1915(大正4)年に真珠の養殖が開始され、1978年には三重県を上回って日本一の生産高を記録。光沢・色・巻き具合ともに世界最高級を誇っている。
創業から約半世紀を迎える「松本真珠」は、養殖から販売までを一貫しておこなっている会社だ。愛媛県では、県の条例で、真珠をつくるアコヤ貝の稚貝と母貝の養育は別業者がおこなうことになっているので、松本真珠の工程は母貝の買い付けに始まる。
真珠は手作業と年月をかけた一級品
まずは、老舗ならではの長年の経験で優秀な母貝を買い付け、核を挿入。そして20~25日ほど静かな海で休ませたら、真珠に適した沖合いまで移動。しかし、あとは数年海に沈めておけばできあがり、というわけにはいかない。アコヤ貝は人間と同じく皮膚呼吸をするため、藻やフジツボなどの付着物を丁寧にとり除く貝掃除が待っている。そうして手間ひまかけて育てて、やっと引き揚げにかかるのだ。
ただし、ここからがまた大変な作業。貝はひとつひとつ手作業で割り空け、傷つけないように真珠を取り出す。それを大きさや色などで選別し、加工する。これも手作業。そしてようやくネックレスなどの製品に仕上げられる。
自然の創作物に人間の知恵を吹き込み、光沢ある宝石が生まれる。
ここにもまた、自然と人間の協力関係が息づいている。