目次
宝石よりもやわらかな水晶は「木」で磨かれる
ピンと緊張感のある一輪挿し。
陶磁器かと思いきや、なんと「水晶」。現代の名工に認定されている河野道一さんが、天然石から削り出した逸品だ。
河野さんによれば、水晶は、宝石よりも若干柔らかい石だそう。
だから削るときには「鉄」を使い、磨くときには「木」を使う。
水晶に研磨剤を塗りながら、高速でまわる機械の先端で削るのを見せていただくと、「あれ、これって、研磨剤がにごってるから、手元の石って見えないんじゃないですか」と中田が疑問を口にした。
「そのとおり。わたしたちは動物や仏像といった細かいものも削ります。そういうときも手元があまり見えない。だから五感を働かせて削っていくんですよ」
水晶細工と切子の意外な共通点
その言葉で中田が思い出したのが、薩摩黒切子だった。「以前、薩摩黒切子の削りを体験させてもらったんです。そのとき、描画した線が見えなかったからものすごく難しかったおぼえがあります」
「するどい」といった河野さんは、中田のほうを振り向き「わたしも江戸切子の職人さんに知り合いがたくさんいるんですよ。確かに似ているところがある。だから仲間同士、お互いに技術を交換して、新しいものを探っています」
甲州では約1000年前に水晶の原石が発見されたといわれている。それから年月をかけ、細工の技術が発展してきた。
その技術を守りながらも、河野さんはさらに新しい技術を模索している。