小久慈焼の土が描く純朴さ
岩手県久慈市には小久慈焼という焼き物が伝わっている。江戸時代に相馬藩からの陶工であった嘉蔵に初代の熊谷甚右衛門が師事したところから始まっている伝統工芸だ。現在から約200年前。甚右衛門は技術の習得とともに、地元の土を研究して小久慈独特の釉薬を作り出した。それが小久慈焼の特徴である、白と茶を基調とした渋みを出し、純朴な味わいを持つ独特の焼物を作り出す。
茶碗や皿などいろいろな器を作るが、小久慈焼代表的なものといえばすり鉢と片口。片口とは片方に長い注ぎ口のついたお碗。お酒を注いだりするのに便利だが、そのまま食材を盛っても、季節の花を生けても愛らしい雰囲気を出してくれる。今回お話をうかがったのは、小久慈焼の伝統を守る下嶽智美(しもだけさとみ)さん。まずは工房を訪問した。
時代によって“少しずつ”変わる小久慈焼
下嶽さんの片口作りを見学する。さきほど伝統を守るといったが「実は伝統、伝統とこだわらずに、いまの時代にあった器のデザインでいいと思うんです」と下嶽さんはいう。
「テーブルの上にあって、いまどきの食器として使えればいい。古いものでも形は様々なんです。だからきっとそのときどきの使い方っていうのがあったんだと思います。だからいまの時代の形っていうのがいいんだと思いますよ」
たしかに片口は食卓で使わなくてはいけないというわけではない。最初にいったように花を飾るために使うという人もいるだろう。だからさまざまなデザインがあってもいいのかもしれない。
中田も片口づくりに挑戦。やはり、難しい。土台に口をつけるだけでも、たっぷりと時間がかかってしまう。下嶽さんでも片口は1日に4つぐらいしか作れないと話してくれた。
若い人たちの反応が変わった
作品を見せてもらって中田がとくに気に入ったのが小さな急須。
「このバランスと大きさがなんともかわいい」との感想。その言葉を聞いて下嶽さんは「最近では、若い人たちの反応が変わってきてると感じますね。百貨店での販売にも若い人たちが来てくれるようになった。こだわったものを使いたいという人たちが増えてきているのかもしれないですね」と話す。
ただし「だからといって特別なことをするつもりはない」とも話す。
「先輩方が作り上げてきた小久慈焼という看板を大事に受け継いでいきたい。その上で時代に沿った器を作りたいと思っています」。こんなふうに小久慈焼のこれからを話してくれた。