漆器に華麗さを吹き込む。沈金家・前史雄さん/石川県輪島市

漆器に華麗さを吹き込む。
沈金家・前史雄さん/石川県輪島市

沈金や蒔絵の技術が発展した土地

輪島塗の加飾技法のひとつである「沈金」(ちんきん)。漆器にノミなどの刃物で模様や絵を彫りこみ、そこに金粉や金箔を貼ったり摺りこんで彩色を施す技法だ。黒く輝く漆器に、目にも鮮やかな金色が飛び込み、しとやかな華麗さを見せる。
輪島地方の気候は湿気が多く、上塗り漆を厚く重ねることが出来る。また、金沢は日本一の金箔の産地であることから、沈金や漆蒔絵の技術が独自の発展を遂げている。

沈金の技術で人間国宝に

前史雄さんは、1999年に沈金師として重要無形文化財保持者(人間国宝)の認定を受けた人物。金沢美術工芸大学に在学中には日本画を学び、のちに父・前大峰氏のもとで沈金を修行した。前大峰氏も沈金の技術で人間国宝の認定を受けている。

沈金の新たな技術を考案する

「前大峰も集中して仕事してましたから、ほとんどは見て覚えました。」そう、修行時代を振り返る。
自身も試行錯誤していくなかで、沈金の奥深さに気づき、製作に没頭していった。日本画の素養をいかした図案、新たな彫刻刀を自ら考案するなど、その実力はみるみるうちに知られるところとなった。

沈金の彫り方には、線、点、こすり、片切り彫り、という4種類の技法がある。
前史雄さんはさらに、「角のみ」という技法を考案された。竹林の葉の部分などにこの技法を用いているという。

沈金の奥深さを知る

中田も実際に作業を体験させていただいた。美濃和紙に書いた下絵を、漆に転写して、その線をなぞるように彫る。
ノミの角度をうまく調整すれば力を入れなくても彫ることが出来ると教わるが、指先に力が入ってしまう中田。前史雄さんにアドバイスをいただきながら、お盆に松の葉の模様を入れる。

彫った部分に、接着の働きをする透明の漆を塗り、その上に真綿を使って金粉を摺りこむ。少し乾燥させてから余分な金粉を拭き取ると、金色の葉の模様が現れた。
場合によっては、金粉に少量の銀を混ぜて、色の濃淡をつけることもあるのだという。

前史雄さんが題材とする竹林の風景。
日本の風景の淡い雰囲気や、空気を感じられるものを作りたい。その気持ちは、日本画を専攻していた頃から持ち続けているのだと話してくださった。
「作品から出てくるというより、ご覧になる方を、作品に引き込むような漆芸作品をいつも考えています。」
じっと見つめ続ければ、底知れぬ奥深さが広がっているのだ。

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沈金家 前史雄
石川県輪島市