NIHONMONO「にほん」の「ほんもの」を巡る旅マガジン

酒の匠が米と水と麹の力を信じて、自然のままに醸す「齋彌酒造店」

酒の匠が米と水と麹の力を信じて、自然のままに醸す「齋彌酒造店」

秋田県はどの土地においても、雪と無縁ではいられない。1902年(明治35年)に創業された「齋彌酒造店(さいやしゅぞうてん)」のある由利本荘市においても、それは同じだ。県内で一番大きな面積を誇る由利本荘は、秋田県南部の日本海沿いに位置しているが、南に鳥海山(ちょうかいさん)、東に出羽丘陵と山にも囲まれている。
山間部の雪は驚くほど深く、山の滋養をたっぷり含んだ雪解け水は、人々の暮らしに豊かな恵みをもたらしている。国内の日本酒愛好家たちが憧憬してやまない杜氏・高橋藤一さんが居る齋彌酒造店にも良質の水が豊富に湧き出ている。

「櫂(かい)入れをしない、水を加えない」自然の力、すなわち微生物や酵母の力による酒造りにこだわるという独自の手法で銘酒を生み出す高橋さんは、自然体の酒造りとでも言えばいいのか、常に柔軟な姿勢で酒と向き合っている唯一無二の匠だ。
多くの酒造りで櫂入れは、原料をよく混ぜる為におこなったり、撹拌する事で発酵作用を促進させるために行われている。そして醪を搾った後の原酒にアルコール度数を調整するための割水を加え味わいや香りのバランスを調整している。

齋彌酒造店の酒造りは「水と米、それと麴だけで醸す」このことをシンプルに実践している。そして櫂入れをするのは仕込みの時に少しだけ。後は一切櫂入れをしない、さらに水を加えないのが齋彌酒造店の酒造りの基本だ。櫂入れをしないと、例えば発酵までの日数が長くかかるようなことはないのだろうかと訊くと、「むしろ発酵日数は短くなる」と高橋杜氏の答えは明快だ。「タンクの中の自然の対流に任せたほうが結果はいい」高橋杜氏はそのことに気づいた日から、櫂入れをやめた。人間が余計なことをせずとも、よい酒はできるのだ。また調整のための加水に関しても「酒が弱くなるからしない」と高橋杜氏。完成したはずの酒に生水である割水を加える事で不確定要素の成分が混じれば、長年の経験と勘で計算しつくされた熟成に狂いが生まれるからだ。こうして醸された酒はどこか素朴で柔らかく、自然の力が造り出した「美味しさ」という奇跡が飲む人を魅了する。

齋彌酒造店で主に使われる酒造好適米「秋田酒こまち」は、蔵人自ら、そして地元の契約農家によって栽培されている。「米作りから始める酒造りをする利点は、なんといってもその年に仕込む酒米の状態を把握できること」と朴訥と話す高橋杜氏。「いい米と水、そして麹があれば、あとは酒に任せるだけでいい」と、酒造りに関して禅問答のようなことを笑顔で語る。

齋彌酒造店の蔵内は、爽やかで新鮮な香りに満ちている。「ほんとうにきれいな蔵だ」と中田も感嘆する清冽な蔵において、齋彌酒造店の酒は原材料の力によって、じっくり醸されている。この原材料に任せる酒造りが澄んだ美しい酒質と旨味を十分感じる味わいを造ることができる秘訣だ。代表銘柄である「雪の茅舎」は大吟醸から普通酒まで幅広い味わいをそろえているのが特徴の一つ。その中でも定番酒ともいえる大吟醸は、軽やかな飲み口と爽やかな果実のような香りにあふれ、これぞ逸品と呼ばれる酒である。
「蔵の癖」、若い頃からいくつもの蔵で修業を積み、酒造りに長く携わってきた高橋杜氏は、そんな言葉をポツリと言う。蔵にはそれぞれ癖のようなものがあるのだと。使う米も水も酵母も、そして蔵内の空気や働く人々、すべてが蔵の癖につながっていく。癖というより、それは、ひょっとすると1つの宇宙(コスモ)のようなものかもしれない。高橋杜氏がコスモを解し、酒の力を信じたからこそ生まれた齋彌酒造店の美酒。今日もタンクの中では、ふつふつと酵母のささやきが奏でられ、出荷の日を待ちわびている。

ACCESS

株式会社 齋彌酒造店
秋田県由利本荘市石脇字石脇53
TEL 0184-22-0536
URL http://www.yukinobousha.jp/