漆掻き鎌製作 中畑文利さん

数ミリの違いが決め手
「漆掻き道具製作 中畑文利さん」

漆掻きの道具を作る職人

津軽には津軽塗という漆の工芸品がある。当たり前のことだが、漆塗を作るためには漆がいる。その第一段階が漆掻きだ。漆の木の幹に切り込みを入れて染み出る樹液を採取する。そこで採れる樹液はあらみと呼ばれている。
そのときに使う道具を作っているのが青森県田子町の鍛冶職人の中畑文利さんだ。道具は木の皮をむく鎌から、幹に傷をつけるかんな、樹液をすくいとるへらなど様々なものがある。もちろん中畑さんはそのすべてを作っているのだが、それ以上にすごいところが使い手つまり掻き手によって道具のひとつひとつを別途調整することだ。掻き手のくせや要望に応じて、刃の幅や曲がり具合を細かに調整していく。だから時間もかかるし、技術も必要とされる。

一日に三本が限界

中畑さんは学校を卒業するとすぐに、父の長次郎さんに学び、以来この道ひとすじ。1995年には国の選定保存技術保持者に選ばれた。今回は目の前で鍛冶の作業を見せてもらった。左手でふいごをあやつり、火の調節をして鎌を熱する。それを取り出して叩き上げるその様は昔ながらの鍛冶職人そのものだ。何度も何度もその作業を繰り返し、微妙な調整をしていく。ときには数ミリ単位の調整さえする。「一番難しいのは、木に溝をつけるかんななんです」という。先端の曲がり具合が重要で、慎重な作業を要する。中畑さんでさえ、「一日に三本が限界ですね」というほどだ。掻き手それぞれの要望もあり、形が一律ではないので機械では作り得ないもの。職人がそれぞれと向き合ってこそ生まれる道具なのである。

使い手が信頼する作り手

そのため量産ができない。だから「ひまがあったら作っておかないと」と言うのだが、毎年毎年違う注文がくるのだそうだ。木の太さによっても注文が違う。その差も何と「昨年は4.3ミリだったけど、今年は木が違うから4.1ミリでお願いしたい」と0.2ミリの違いを注文してくることもあったそうだ。これはとりもなおさず中畑さんを信頼してのことだろう。「使っていただけるものを作れてるからまだいいのかなと思っています」と中畑さんは自分の仕事のことを話す。
中畑さんのもとには、鍛冶を習いたいと来る人もいるそうだが、その数はごくわずかというのが現状。本物の漆掻きの道具を作れるのは中畑さんひとりと言われることさえもある。「使い手が困るから技術は伝えていきたい」と中畑さん。田子町は町おこしの一環として国が推進する「地域おこし協力隊制度」を使い弟子を募集し、技術の継承に尽力している。

ACCESS

漆掻き道具製作
青森県三戸郡田子町田子64-22